能登の優しさ海越えて 七尾の歯科医院、台湾の一人旅女性救った

台南の女性の応対と治療に当たった宮下さん夫妻=七尾市内

  ●日本語話せず、想定問答集で治療

  ●現地紙が紹介「美しい人情」

 10月上旬、台湾・台南市から一人旅で石川県内を訪れていた女性が突然の歯痛に見舞われた際、七尾市内の歯科医院で受けた善意が海を越えて感動を呼んでいる。日本語を話せない女性に対し、医師やスタッフは外国人用の想定問答を使って症状を聞き取り、台湾出身の親類に連絡して処方箋についても説明した。親切な対応に感激した女性が台湾の大手紙にこのエピソードを伝えたところ、「美しい人情」として大々的に掲載され、能登の小さな優しさが台湾全土に広がった。

 台南の女性を受け入れたのは七尾市石崎町香島2丁目の「みやした歯科医院」。受付を担当する宮下松美さん(60)によると、女性は40代くらいで、10月5日午後2時ごろ、不安げな表情で医院に駆け込んできた。

 宮下さんは女性が日本語を話せないことにすぐに気づき、和倉温泉の旅館などで働く外国人向けに常備してあった想定問答集を持ち出した。その内容やスマートフォンの翻訳アプリを頼りに、痛みがある箇所や症状を尋ねた。

 しかし、十分なコミュニケーションが取れず、女性は紙に「黄」と自分の名前だけを記した。宮下さんの夫で院長の修さん(63)は取り急ぎ痛みを和らげる応急措置を施したが、女性は治療の中身などが理解できず、心配そうな表情を浮かべていたという。

  ●同郷の親類も協力

 そこで宮下夫妻は、東京で暮らす娘の夫の母親が台湾出身であることから、連絡して助けを仰いだ。母親を通じて痛み止めの薬を処方したこと、服薬時の注意点などを女性に説明し、最後に「元気で日本旅行を続けられるよう願っている」と伝えてもらった。

 このやりとりは、台湾の四大新聞の一つである「自由時報」が10月16日付の電子版で取り上げた。記事によると、女性は旅の2日目、顔や首にまで痛みが広がるほどの激しい歯痛に襲われ、インターネットで検索した最寄りの歯科医院を訪れた。

 女性は言葉が通じず、旅を最後まで続けられるか心配していたが、みやした歯科医院での治療と説明で痛みも不安も和らぎ、旅を続けることができたという。

  ●感謝の手紙届く

 10月下旬、宮下夫妻のもとに、女性から旅を無事に終えることができた旨を日本語で記した手紙とお礼のパイナップルケーキが届いた。修さんは「当たり前の治療をしただけ」と照れくさそうに話し、松美さんは「能登の良い思い出になったのならうれしい。また七尾に遊びに来てほしい」と喜んだ。

台南の女性から届いた感謝の手紙とパイナップルケーキ

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