【実録】親子であっても話しにくい「お金の話」。FPはどのように切り出した?

老後の思わぬリスクとして、親の生活費や介護費の負担が挙げられます。対策としては、親の財産状況の把握が有効ですが、「お金の話は親子であってもしづらい」と後回しにされがちです。今回は筆者が実際に親の財産状況を把握した経緯をお伝えします。


高齢の親を金銭的に支えるリスク

みなさんのご両親は今何歳でしょうか? 50代の方だと、親世代は80代、90代といった方が多いのではないでしょうか?

さすがにその年齢になると病気になる方も多いですし、認知症を発症する方も多くなります。それまで親世代だけで暮らせていたとしても、だんだんに誰かの手が必要になってきます。

子世代が親の近所に住んでいれば容易にサポートもできますが、そうではない場合、子世代の暮らしに大きなしわ寄せがくることがあります。また、物理的な負担に加えて、金銭的な負担が発生することもあります。

親の介護に専念したために自分自身の老後の準備ができなかったという方や、親へ多額の金銭的援助をし、自分の資産が減ってしまったという方もいらっしゃいます。そうならないためには、親世代は親のお金で老後が完結できるのかどうかを把握することが必要です。もし、経済的支援が必要な場合は、どのくらいするのか、できるのかを考えておかないと、自分自身の老後の生活設計も大幅な変更を余儀なくされてしまいます。

ノートに資産一覧を

お金のはなしは親子でもなかなかしづらいかも知れませんが、ここが出発点ですのでぜひ子世代から切り出しましょう。

実際筆者も先日84歳の母の資産状況の把握を行いました。まずは母が保有する預貯金を書き出しました。通帳が複数ありましたから、ひとつひとつ番号を控え、現時点での残高を一覧にしました。また入出金履歴を遡って、今後のキャッシュフローに滞りがないかも確認しました。

母は地方公務員でしたから共済からの年金、国民年金、父の遺族年金の3種類の公的年金があります。それぞれ通知書を保管していましたが、詳細までは理解できてはいませんでしたので今回それらを付き合わせながら、年金額を把握しました。

生命保険会社の私的年金もありました。いつの間に契約したのか、85歳から受取りを開始する確定年金もありました。他にも介護保険と終身の死亡保険もありましたので、証券をクリアファイルに整理しつつ、証券番号や問い合わせ先、保障内容などを一覧にしました。また契約者である母が自分で保険金請求をできなくなる状況も想定して、代理人も指定しました。

母は不動産を一切持っていませんし、有価証券もありません。以前住んでいたマンションは売却し施設入居の一時金にしましたし、かつて父から相続した有価証券はタイミングを見ながらすべて売却した経緯があります。

筆者が親の財産状況を整理するのは、今回が3回目です。最初は、父が亡くなる前に父がまとめた財産一覧について説明を受けました。用意周到な父だったので、がんの緩和ケアを受ける中、相続をどうするのか、葬儀はどうするのかといった指示も含め話ができたのは、とても良かったと感じています。

相続で発生した生命保険や年金の手続きなど諸々が終わった後に、今度は母のために財産目録を作りました。父に頼り切っていた母が、今後の生活はどうやりくりしたら良いのか分らないと言ったので、毎月の予算立てをしました。

父の死後1人暮らしは心細いと母は施設に入居しました。同時期にコロナとなり、長い間会えずにいたので、この度施設での暮らしを見込んだ財産状況の把握を行った次第です。

「親にお金のことを聞くきっかけってありますか?」などと、お金の話を切り出すタイミングについてよく尋ねられますが、こういう話は親が元気な時じゃないと、逆に聞けないので、あまり深く考えずにできるだけ早くに取り組みましょうとお答えしています。

私は「お母さん、最近郵便物の整理とか書類の整理とかできている? たまっているようなら、内容確認しようか?」と声かけをしました。母はまめな方ですが、理解力、判断能力が衰えている中、郵便物がくるだけで疲れてしまいます。そのため、このように「困りごとを解決する」ことを切り出せば、意外にそのあとお金の把握までスムーズにいくのではないかと思います。

資産管理のメリット

今回母の資産状況を確認して、とても良かった点が3つありました。

母は、老後のお金が足りないのではないかと漠然とした不安を抱えていました。趣味の手芸教室の材料代が高いから、節約しなくてはといった具合です。

実際、毛糸代ぐらいでこれからの暮らしが成り立たなくなることはないのですが、年金収入と施設費用の収支を出し、その差分で現在の預貯金残高を割り、今の暮らしが十分天寿を全うしても間に合うことを伝えました。さらに母の収入であれば、医療や介護の自己負担も1割であるため、介護費用として想定されるお金も試算して見せました。今後の見通しが立った母は、手芸教室の他パソコン教室にも通えそうと笑顔でした。

二点目は、生命保険の請求をする代理人には弟を指定することに決めたことです。これまで親の資産管理は仕事柄筆者が中心となっていましたが、改めて弟にも母の資産や保険の状況を伝えると共に、物理的に近くに住む弟が代理人としては適切であるという結論にも至りました。同時に銀行口座についても、代理人カードを今のうちに作ろうという話ができました。

保険請求を行うケースとしては、母の健康状態を理解しておく必要があります。ペースメーカーをつけている母は、亡くなった時にそのまま火葬をすると爆発の恐れがあるのでその対処も家族皆が理解しておく必要があります。「病気や死」を口にするのは憚られますが、だからこそ元気な時に情報をシェアしておくべきと改めて感じました。

三点目としては、相続について再確認できたことです。相続税の非課税枠は、3,000万円+600万円x法定相続人の数で算出されます。それ以上の部分については、相続税が発生するので、現金で支払を準備する必要があります。

母については、相続税は発生しない見込みです。しかしこれを機に孫達に生前贈与をしたいという母の希望を聞くことができたので、来年実行することにしました。また財産分与についても、母の意向の確認と弟との共有ができたことは非常に良かったと考えています。

何より今回財産状況の確認をして、母から感謝されたことが最も大きな収穫でした。お金は日々使うものだから、親はちゃんと理解した上で生活しているだろうと思わず、子世代が手を差し伸べる必要性は高いとも感じました。お金を軸として、これからの話をすることの重要性を改めて感じた次第です。

ぜひ皆さんも親御さんが元気な時こそ、お金について話し合ってみてください。各種通知書、証券、書類等の整理から切り出すのも良さそうです。きっと高齢の親御さんにとっては、それらの対応は手に余ることだと思います。そこに手を貸すことで、きっと親御さんからは感謝をされ、今後のために資産管理も手伝って欲しいとの流れになるかと思います。これもまた親孝行、「あの時しておけば良かった」と後悔しないよう、参考にしてください。

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