JR北陸線は第三セクター4社へ、レールは1本なのに経営は…福井と石川、富山が目指すボーダーレスな観光地

富山県のあいの風とやま鉄道が運行する観光列車「一万三千尺物語」。2024年秋の北陸デスティネーションキャンペーンに合わせ、福井県内区間での運行が検討されている(同社提供)
【グラフィックレコード】北陸を「線」に

 車窓に広がる立山連峰や富山湾を横目に、握りたての「富山湾鮨」や懐石料理を味わう乗客たち。富山県の「あいの風とやま鉄道」の観光列車「一万三千尺物語」は2019年度の運行開始以来、50~60代のシニア層などを中心に人気を集め、22年度の乗客は初めて5千人を突破、過去最高を記録した。

 「『一万三千尺物語』を富山から敦賀まで運行させましょう」。昨年7月、金沢市内で開かれた北陸3県知事懇談会で杉本達治知事が呼びかけると、富山県の新田八朗知事は「県域を越えた列車運行に取り組んでいきたい」と笑顔で応じた。24年秋に開かれるJRの大型観光企画「北陸デスティネーションキャンペーン(DC)」に合わせて運行する計画が進んでいる。

 「一万三千尺物語」の車内では地元のジュースやビール、日本酒、ワイン、ハイボールなどをそろえ、富山県産にこだわっている。あいの風の日吉敏幸社長は「福井ならではの食材や景色を売り込めば観光客を呼び込めるはず」と話し、ノウハウの提供など協力を惜しまない姿勢だ。

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 来春のハピラインふくいの運行開始に伴い、新潟県直江津駅から滋賀県米原駅までを結んでいたJR北陸線は敦賀―米原間を除き、新潟県のえちごトキめき鉄道、石川県のIRいしかわ鉄道を含めた第三セクター4社が担う形になる。レールは1本でつながっているのに県単位で分割する経営効率の悪さを指摘する声もある。「各社の営業距離や輸送密度にはばらつきがあり、経営統合のハードルは高い」(県関係者)が、経営安定化や利用促進に向けて、県境を越えた協力を進めていくことは重要だ。

 北陸3県の第三セクター会社は、3社共通のフリー切符販売や共同スタンプラリー、車内広告を使った3県の観光PRを進めていく方針で一致。石川、富山両県は10月9日、自転車をそのまま列車に積み込める「サイクルトレイン」を県境をまたいで実証運行した。乗客33人は列車を降りた後、各県のサイクリングルートを巡り、鉄道と自転車の旅を楽しんだ。石川県の馳浩知事は将来的には福井県との連携にも意欲を示しており、こうしたイベント列車を通じて新たな鉄道利用者の獲得につなげたい考えだ。

 ハピラインふくいの経営計画では、福井県と石川県の県境をまたぐ福井-金沢間は1日40本、敦賀―金沢間は3本、武生―金沢間で1本の運行が予定されている。運賃はハピラインとIRいしかわ鉄道の両方の初乗り運賃が適用されるため割高になる見込みだが、両社は乗客の負担を軽減するため協議を進め、現行のJR運賃の1.3倍程度に抑えるよう乗り継ぎ割引を導入する。

 現在、富山県内の駅と金沢の間では朝夕に停車駅が少ない快速タイプの「あいの風ライナー」が運行されており、両県をまたいで通勤するビジネスマンらのニーズに応えている。地域の交通政策に詳しい富山大学の中川大・特別研究教授は「3県を結ぶ快速列車も一定の需要が見込めるのでは」と提案。並行在来線運営3社が連携し、サービスの質向上を図れば確実に利用者は増えていくとみている。

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 来年3月の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。の第5章テーマは「ハピラインにバトン」。新幹線開業後、JR北陸線を引き継ぐ第三セクター「ハピラインふくい」の展望や課題を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン・各章一覧

【第1章】福井の立ち位置…県外出身者らの目から福井の強み、弱みを考察

【第2章】変わるかも福井…新幹線開業が福井に及ぼす影響に迫る

【第3章】新幹線が来たまち…福井県外の駅周辺のまちづくりなどをリポート

【第4章】駅を降りてから…観光地へどう足を運んでもらう?

【最新・第5章】ハピラインにバトン…JR北陸線を引き継ぐ第3セクターの展望、課題は?

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