社説:国立大法の改正案 学問の自由脅かす管理強化

 大学の在り方を大きく変えかねないのに、研究、教育の現場から声を聞いた形跡もない。拙速すぎないか。

 国立大学法人法の改正案が今国会で審議されている。学長と3人以上の委員でつくる「運営方針会議」の設置を義務づけるという。

 同会議は予算・決算や大学の中期目標・計画など重要事項を決定し、学長の選考や解任について意見できる。委員は経営の専門家などを想定し、学内協議を経て文部科学相が承認する。

 大学運営への政府の管理や干渉をこれまで以上に強める制度ではないか。検討し直すべきだ。

 これまで政府は10兆円規模の大学ファンドから支援を受ける「国際卓越研究大」認定校は、ガバナンス強化のため新たに運営方針会議が必要と説明していた。

 ところが法案では、卓越大に選ばれた東北大だけでなく、京都大や東京大など、理事が7人以上で「規模が特に大きい」とみなされた5大学法人も設置対象とした。

 国立大学法人では現在、予算や運営方針を役員会の審議を経て学長が最終決定する。ここに屋上屋を架す理由がどこにあるのか。「規模」の大小の基準も明確ではなく、立法の必要性が極めて曖昧というほかない。

 政府は2004年の国立大の法人化以降、運営交付金を減らす一方で学長や理事会の権限強化を進め、19年からは、国の指標による評価を交付金の配分に反映させる仕組みも始めた。

 大学が国の意向を忖度せざるをえない仕組みが一層強まる恐れがある。京大の教員らが「大学の自主自律が失われる」と抗議の声を上げたのは当然だ。

 運営方針会議の委員を文科相が承認する仕組みについて、盛山正仁文科相は「明らかに不適切な場合を除き拒否できない」と答弁した。

 しかし、同様に「形式的」とされてきた日本学術会議では、菅義偉政権による任命拒否が起きた。現政権も理由を説明せぬまま拒んでいる。

 改正法案では、大学の債券発行や土地貸し付けを従来の認可制から届け出制に変更する。交付金を減らす一方で、露骨な資金調達や「財テク」の規制緩和だろう。

 資金計画につまずき学生や教職員につけが回らないか。公共性の高い国立大の土地が企業に流用されないか。政府は懸念に答える必要がある。

 政府は日本学術会議を国の機関から切り離し、民間法人化する検討も進めている。国立大法人法の改正案と重ねると、政府の意向や経済成長に沿う学問に金や人を集中させたい狙いが透けて見える。

 自由闊達(かったつ)な学問は、この国の民主主義と将来の礎である。時の政権の意向だけで決めるべきではない。

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