社説:アウティング 重大な人権侵害との認識を

 重大な人権侵害であるということを、社会の認識として広げていくことが重要だろう。

 性的指向や性自認を本人の同意なく第三者に暴露する「アウティング」の禁止を、条例で明記する自治体が増えている。

 「地方自治研究機構」(東京)や各自治体によると、10月時点で少なくとも12都府県で、26自治体が条例で定めていた。2020年は5自治体だったが3年間で約5倍に広がった。

 条例化によって、正しい情報の周知や予防策を講じ、苦情や救済の申し出など被害者救済につながりやすくなる。意義は大きい。多くの自治体に広がることを期待したい。

 アウティングは2015年、同級生に同性愛を暴露された一橋大法科大学院の学生が校舎から転落死し、社会問題化したことで意識が高まった。訴訟に発展し、アウティングは人格権侵害であると認定された。

 キャンパスのある東京都国立市が18年、全国初となる禁止条例を施行した。都道府県では三重県と埼玉県が続いた。

 京都、滋賀の中では、福知山市が昨年4月に「みんなの多様な性を尊重する条例」を施行している。アウティングに加え、性的少数者であることを公表する「カミングアウト」を強制したり、差別したりすることを禁じた。

 だが、本来は個別の自治体にとどまらず、国全体で取り組むべき問題ではないか。

 6月に国会で成立したLGBTなど性的少数者への理解増進法では、差別禁止の明記すらされなかった。人権尊重や国際的な潮流を踏まえ、与野党は議論を始めてもらいたい。

 20年6月施行の女性活躍・ハラスメント規制法では、指針でアウティングがパワハラの一類型に規定され、企業は防止対策を義務付けられた。

 昨年3月には、職場の上司のアウティングにより精神疾患を発症し、退職を余儀なくされた20代男性が労災認定された。豊島区の禁止条例に基づき救済を申し立て、会社側と和解したという。政府もアウティングがパワハラだと改めて強調した。

 ただ、十分に理解が広がっているとはいえない。

 職場以外でもアウティングは起こり得るが、学校などでの法規制はない。条例のない多くの自治体では対応が遅れている。

 アウティングは、暴露する側が無意識や軽い気持ちであっても、公表された人の居場所や命を奪いかねない問題である。そうした認識を、共有することが重要になる。

 性的指向などを理由にした差別や偏見もあってはならない。

 何ら不利益を心配することなく、性的少数者が自由に意思表示でき、自分らしく暮らせる環境づくりが求められる。

 だれもが「生きやすい社会」にもつながるだろう。

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