忘年会は曲がり角

 日本で初めて、忘年会について本格的に研究した本がある。社会学者の園田英弘(ひでひろ)さんが2006年に著した「忘年会」(文春新書)によると、室町時代の「としわすれ」の記録に始まるらしい▲江戸時代も近代も恒例行事として続いた。戦後、サラリーマン人口がぐんと増え、忘年会の数や規模も膨らんだという。高度成長期の1960(昭和35)年ごろ、11月半ばには始めないと年内に“消化”しきれないほどの忘年会ブームが起きる▲その頃には職場単位での旅行、花見、運動会が盛大に行われ、忘年会も〈共同体的な色彩を強める〉ために盛んになった。終身雇用制度が根付いたその時代、組織内の親睦や結束の場が求められたらしい▲終身雇用が揺らぐ今はどうだろう。東京商工リサーチの最近の調査によると、全国4700社余りのうち、この冬に忘年会、新年会を予定するのは54%にとどまった▲「コロナ禍の前は行っていたが、この冬はやらない」と答えたのも2割に上る。主な理由は「抵抗感を示す従業員が増えた」「忘・新年会が労働時間にカウントされる恐れがある」…▲年忘れとは、気が合う人々が、個人的に寄り集まる場になるのかどうか。「組織を挙げて」から「組織を忘れて」へ。やや大げさながら、忘年会史は曲がり角に来ているらしい。(徹)

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