宇宙事業の参入加速 創業や誘致、40社超 茨城県プロジェクト5年

菊池精機が開発製造する小型人工衛星の構体を説明する菊池正宏常務=那珂市向山

宇宙ビジネス分野への企業参入が茨城県内で加速している。製品開発や販路開拓などを支える県の「いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクト」がスタートして5年。異業種による新規参入や県内への移転、ベンチャー創業など、進出は40社を超えた。ロケットや人工衛星利用が進み、市場が拡大する中、企業は「大きなチャンス」と成長産業に熱い視線を注いでいる。

■チャンス

同県日立市の金属加工業、菊池精機は2020年、小型人工衛星の骨格に当たる「構体」の開発、製造を始めた。製品は金属ブロックから削り上げた連結部のない「ボルトレス」。約60年にわたって培ってきた技術を生かし、ロケット発射時の振動などに対する高い強度を持つのが特徴だ。

参入は、13年から事業の柱に据えてきたジェットエンジン部品の受注がコロナ禍で減ったことが要因の一つとなった。航空と宇宙分野は、品質管理が同じ国際規格で定められている。このため、技術を生かした独自製品で販路開拓を目指す。本年度は県の補助金採択も受けた。

「国内需要はまだ少ないが、米国では(国内に比べ)数十、数百倍の市場がある」。菊池正宏常務は海外への売り込みに意欲を見せ、本年度から欧米の展示会や発表会に出展している。「国内に参入事業者が少ない今が大きなチャンス。まずは実績をつくり、事業を軌道に乗せたい」と話す。

■機運醸成

県は18年8月、「いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクト」として、宇宙ベンチャーの創出や企業誘致、県内企業の新規参入促進に乗り出した。国や宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携し、企業と投資家のマッチングや技術開発支援、相談、資金援助などを展開する。

6月にはつくば研究支援センター(同県つくば市)に新たな支援拠点を開設した。専任コーディネーター2人が常駐し、技術開発のノウハウやニーズについて知識を生かした助言を行っている。

宇宙飛行士の土井隆雄さんを県の「ビジネスアドバイザー」にも委嘱した。県事業に対する協力関係を結び、講演などを通して企業への参入機運醸成や県民が宇宙に関心を持つための取り組みを進める。

■民間移行

県のプロジェクト開始から5年。県特区・宇宙プロジェクト推進室によると、10月末現在、ベンチャー創業や県外からの拠点開設は21社、県内企業の新規参入も25社に上る。県の補助金採択は5年間で26社40件。実際に売り上げに結び付いたのは8社で、県総合計画(20~25年度)で定めた目標の12社も視界に入る。

政府は6月に「宇宙基本計画」を改定し、産業や安全保障、通信など各分野で政策強化を示した。民間ロケット開発や衛星データの利用拡大など成長産業として見据え、市場規模を20年の4兆円から30年代初めには8兆円へ倍増させる目標も掲げる。

宇宙産業は国家的プロジェクトから、民間事業へと徐々に移行。災害への対応や防災、農業など、さまざまな分野で衛星データの利用が広がる。推進室の担当者は「市場拡大に応じ、民間による宇宙開発が進められる時代になってきた」として、企業参入への後押しに力を注ぐ。

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