ベネチア国際映画祭銀獅子賞作品で主演 足利市出身の“三刀流”大美賀さん 運転手から寸劇で監督の目に留まり抜擢

インタビューに応じる大美賀さん=10月、東京都内

 第80回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門で銀獅子賞(審査員大賞)を獲得した「悪は存在しない」(2024年公開、濱口竜介(はまぐちりゅうすけ)監督)。「村の何でも屋」役で主演の大美賀均(おおみかひとし)さん(35)=栃木県足利市出身=が19日までに、下野新聞社の単独インタビューに応じた。本業は映画制作者で、12月15日には初監督作品「義父養父」の公開を控える。「銀獅子賞の実感はあまりない。俳優業はやって良かったし、今後の映画作りにも生きる経験」と振り返った。

 大美賀さんは高校卒業後に上京。桑沢デザイン研究所(東京都渋谷区)を経て、27歳ごろに映画業界へ飛び込んだ。現在は制作会社「ケリンド」(同)に所属。主に映画の演出部、制作部として活動する。

 「悪は存在しない」は、音楽家の石橋英子(いしばしえいこ)さんからライブパフォーマンス用の映像制作の依頼を受け、濱口監督が脚本を書き下ろした。

 大美賀さんが濱口作品に参加するのは2作目。今作の企画立ち上げ当初のシナリオハンティング(脚本執筆前の調査や取材)では、運転手を担当していた。

 シナリオハンティングの際、寸劇で現地の住民になりきり、まき割りなどを行った所作が濱口監督の目に留まった。主演の打診に驚きはあったが、迷いはなかったという。「一番近くで、濱口竜介の映画作りに携われる。こんなに幸運なことはない」と快諾の理由を明かす。

 撮影は2〜3月、長野、山梨両県で行われた。苦労したのはせりふの暗記。住民らと山を歩きながら、役柄への理解を深めていった。「出演経験はほとんどない。スタッフやキャスト、現地で協力してくれた皆さんのおかげでやりきれた」と感謝を口にする。

 濱口監督の人物像を、親しみやすさと緊張感を併せ持っていると評する。印象に残ったのはコミュニケーションを大切にする姿勢だ。俳優やスタッフが同じ方向を向けるよう、時間をかけた丁寧なやりとりを目の当たりにした。

 映画の魅力について「みんなでモチベーションを共有し、プロの仕事ができる点」と熱を込める。「義父養父」では、俳優の演技やスタッフの提案が予想を上回ったり、違う視点に気付いたりするたびに、監督業の面白みを実感した。

 スタッフ、俳優、監督の“三刀流”で活躍するが、どこまでも自然体だ。「使命感ではなく、人や現場が面白いから映画を作るという感覚。面白い現場から声が掛かれば、また演じるかもしれない」と笑顔をみせた。

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