内閣、のくかいな

 上から読んでも下から読んでも同じ読み方になる文章を「回文」というが、中には皮肉がきいた佳作もある。国文学者、鈴木棠三(とうぞう)さんの「ことば遊び」(中公新書)にある例文に、今の政治に当てはまるものを見つけた。その一つ、〈内閣(ないかく)、退(の)くかいな〉▲世論調査で内閣支持率は20%台に落ち込んでいる。多くの人の胸に「引き際」の一語がよぎっているだろう▲解散に踏み切れないまま退陣になだれ込むという、菅義偉前首相の前例を重ねる向きもある。衆院の解散風ならば6月にも吹いたが、〈夏(なつ)まで待(ま)つな〉と背を押す声をよそに、岸田文雄首相は見送ってきた▲年内の解散もすでに断念している。〈やれやれや〉。今の国会のやりとりを見ていると、「末期的」と与党内でもため息が漏れるのもうなずける▲首相は「税収が増えたから国民に還元する」と減税を唱えるが、財務相は減税の“元手”はないと言い、話がまるでかみ合わない。自民党の五つの派閥に「政治とカネ」の問題までも明るみに出た▲もうすぐ師走、〈つまんねえ年末(ねんまつ)〉と首相の胸の内でぼやきが続くのは、どうやら避けられそうにない。解散できずにいるのに、減税で「選挙目当て」の下心をちらつかせる…。国民に底意(そこい)を見透かされた迷走劇の味は〈いかにも苦(にが)い〉と言うほかない。(徹)

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