社説:膨らむ政府基金 財政民主主義を損なう

 監視の目が届きにくい財布が膨らみ、無駄の温床が広がっている。歯止めをかけねばならない。

 複数年度にわたり支出できる政府の基金の数が180を超え、2022年度末の残高は16兆6千億円にも上る。2兆4千億円だった19年度末から、新型コロナウイルス対応などで新設や積み増しが相次ぎ、7倍近くに膨張した。

 さらに、国会で審議入りした23年度補正予算案でも、基金に4兆3千億円を計上している。半導体関連産業の支援だけで2兆円近くを割き、宇宙開発にも3千億円を充てるという。

 基金は本来、例外的な予算措置である。コロナ対応を理由にした非常時から軌道修正せず、貴重な公費が吸い上げられている。

 国会の議論も不十分なまま、巨額の基金を放置しては憲法に基づく「財政民主主義」を損なう。早急に見直しを進めるべきだ。

 基金増の背景には、コロナ禍以降、「規模ありき」で経済対策の額を大きく見せることを優先してきた政権の姿勢がある。

 予算の単年度主義にしばられない基金は、複数年分の資金を確保できる利点がある一方で、不要な積み上げで管理費がかさみ、無駄な支出につながりやすい。独立行政法人などが実務を担うため、政府予算の歳出のように使途を国会でチェックする機会も乏しい。

 このため、事業を実施していないのに管理費だけを支出している「休眠」の問題や、過大な見積もりが指摘されてきた。

 国の基準では10年を超えない範囲で事業の終了時期を定めるとしているが、環太平洋連携協定(TPP)に対応する農業強化の基金など約3割で未設定という。成果目標を定めていない事業もある。

 管理する各省庁が目標や効果をあいまいにしたまま、基金を既得権として手放していないのが実情といえる。

 政府は有識者が予算執行の無駄を点検する行政事業レビューで基金の問題を取り上げた。改善を求める指摘が相次ぎ、全ての基金で点検、見直しを進める方針を示した。運用の透明性を高め、使う見通しのない資金を国庫に返納させるという。当然のことだろう。

 岸田文雄首相は基金見直しを指示することで、少子化対策や防衛費の財源確保に向けた国民の負担増への反発をそらしたいようだ。

 しかし、その一方で、基金を積み増して残高を膨らませる補正予算を組んでいるようでは、ただのパフォーマンスとしか映らない。

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