「宗教」「科学」そして「地獄」! ミステリーの秋にイッキ観したい『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの音楽世界を濃厚解説

『ダ・ヴィンチ・コード』DVD価格:¥4,179(税込)発売・販売:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント© 2006 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.『天使と悪魔』DVD価格:¥1,410+税発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント© 2009 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.『インフェルノ』DVD価格:¥1,280+税発売・販売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント© 2016 Columbia Pictures Industries, Inc. and LSC Film Corporation. All Rights Reserved.

CSムービープラス「24時間 秋のミステリーサスペンス」

2023年11月のCS映画専門チャンネル ムービープラスでは「24時間 秋のミステリーサスペンス」という特集が組まれ、『オリエント急行殺人事件』(1974年)や『殺人の追憶』(2003年)、『レディ・ジョーカー』(2004年)など全10作品が放送されている。

BANGER!!!で映画音楽に関するコラムを執筆している筆者としては、カルロス・ラファエル・リヴェラの『誘拐の掟』(2014年)やラミン・ジャワディの『レミニセンス』(2021年)など有名作曲家が音楽を手掛けた作品も大変魅力的なのだが、今回はダン・ブラウンのベストセラー小説をロン・ハワード×トム・ハンクスの監督・主演コンビで映画化した『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)、『天使と悪魔』(2009年)、『インフェルノ』(2016年)のシリーズ一挙放送に合わせて、巨匠ハンス・ジマーが作曲した珠玉の音楽をご紹介したいと思う。

ロン・ハワードとハンス・ジマー、二人の巨匠15年ぶりの再タッグ

『DUNE/デューン 砂の惑星』(2020年)で2度目のアカデミー作曲賞に輝き、最近では『ザ・クリエイター/創造者』(2023年)の作曲も手掛けた巨匠ハンス・ジマー。

『ダ・ヴィンチ・コード』は彼が『バックドラフト』(1991年)以来15年ぶりにハワード監督との“再会”を果たした作品であり、この仕事を通して旧交をあたためた両者は、その後『フロスト×ニクソン』(2008年)、『僕が結婚を決めたワケ』(2010年)、『ラッシュ/プライドと友情』(2013年)、『リビルディング・パラダイス 楽園に戻るまで』(2020年)、『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』(2020年)などでもタッグを組んでいる。

ハワード監督への誕生日プレゼントになった『ダ・ヴィンチ・コード』の音楽

ハワード監督がサウンドトラックアルバムに寄稿したライナーノーツによると、『ダ・ヴィンチ・コード』のレコーディング初日は自身の誕生日と重なったため、彼がスタジオに入るとオーケストラが「ハッピー・バースデー」を演奏して迎えてくれたという。ジマーは初日の時点で主要なテーマを網羅した5つの曲を既に作曲しており、ハワード監督はその力強く、新鮮で、素晴らしく効果的な音楽に感銘を受けたとも記している。一方のジマーも、この記念すべき日(3月1日水曜日)をラテン語に訳してアルバム1曲目の曲名とすることで、ハワード監督との再会の喜びを表したのだった。

ハワード監督の期待に応えるべく、ジマーはじっくりと腰を据えて『ダ・ヴィンチ・コード』の作曲に臨み、オーケストラと合唱団の重厚な演奏にソプラノ歌手の独唱とヴァイオリン/チェロのソロを組み合わせた、クラシカルで厳かな音楽を作り上げた。

宗教象徴学者のラングドン教授(トム・ハンクス)がダ・ヴィンチの名画や史跡に隠された秘密を解き明かし、キリスト教最大の謎に迫る物語にふさわしい、壮大で情緒あふれるメインテーマの旋律が胸を打つ。ジマーが『シン・レッド・ライン』(1998年)で編み出した「シンプルな音を繰り返し、積み重ねていくことで音楽からドラマティックな効果を引き出す」というテクニックも、本作のクライマックスで見事に機能している。

ちなみに先述の「主要なテーマを網羅した5つの曲」は、サウンドトラックアルバムのリリースにあたって「曲を短く編集したくない」というジマーの意向により、約27分のミニ交響曲という本来の構成に近い形で、アルバムの9曲目から13曲目にまたがって収録されている。メインテーマ曲の「Chevaliers De Sangreal」は、ジマーが2016年にプラハで開催したコンサートでも演奏され好評を博した。

世界的ヴァイオリニストの演奏とシンセサイザーで「宗教」と「科学」を描いた『天使と悪魔』

コンクラーヴェ(教皇選挙)と反物質を用いた爆弾テロ事件が絡み合う続編『天使と悪魔』において、ジマーは『ダ・ヴィンチ・コード』とは異なる音楽的アプローチを取った。「宗教」と「科学」を対等な要素として扱った物語に合わせて、シンセサイザーを積極的に用いることで「科学」の側面を強調したのである。

さらにジマーは世界的ヴァイオリニストのジョシュア・ベルを招聘し、「オーケストラ+電子音」のハイブリッドなサウンドの中で、彼の美しいソロ演奏を響かせることによって音楽に神聖さを与え、登場人物の内面描写をより一層奥深いものにした。『ダークナイト』(2008年)や『フロスト×ニクソン』での実験的な音作りとミニマル・ミュージック体験も反映された結果、全体的に前作よりもモダンなサウンドとなっている。

強烈な電子音でラングドン教授の精神的苦痛と「地獄」を表現した『インフェルノ』

ラングドン教授が世界規模のバイオテロ計画に巻き込まれる第3作『インフェルノ』では、スピーディーで激しさの増したストーリー展開に合わせて、強烈な電子音が脈動するエレクトロニック・スコアの占める割合が大幅に増えた。ジマーが『チャッピー』(2015年)で取り組んだシンセサイザーを駆使した曲作りが、本作にも影響を与えたのかもしれない。

ジマーは本作のサウンドトラックアルバムのプレスリリースに「『インフェルノ』は見当識障害(「いつ」「どこ」という感覚が薄れる症状)についての音楽と言える」といった旨のコメントを寄せている。今回のラングドン教授は心身共にボロボロの状態で登場し、幻覚の症状に苦しみながら、一部の記憶が曖昧なまま“謎解き逃避行”を繰り広げることになる。時に耳障りにすら感じられるノイズのような電子音と、聴き手を急き立てるような激しいリズムは、ラングドン教授の混乱と精神的苦痛、焦燥感を描いたものなのである。

前2作からドラスティックな進化を遂げた『インフェルノ』の音楽だが、『ダ・ヴィンチ・コード』で聴かれたメインテーマは今回も要所で用いられ、「ラングドン教授のテーマ」としてのアイデンティティーを確立している。また『天使と悪魔』の「Science And Religion」(サウンドトラックアルバム6曲目)で聴かれたモティーフもある重要な場面で再び使われており、強い印象を残す。

シリーズ全3作、物語のテーマに合わせて自在にサウンドを変化させながら、ラングドン教授の思考プロセスと登場人物の複雑な内面、そして現代社会における科学と宗教の微妙なバランスを描き続けた、深遠で示唆に富んだ音楽と言えるだろう。

文:森本康治

『ダ・ヴィンチ・コード 』『天使と悪魔 』『インフェルノ』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:24時間 秋のミステリーサスペンス」で2023年11月放送

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