放置された“さまよえる遺体”問題 引き取り手が見つかるまで行政が業者に保管依頼 コストは業者持ち

“超高齢化社会”と呼ばれて久しい日本…身寄りのない人が亡くなるケースも増えています。愛知県岡崎市の葬儀場で、引き取り手のない遺体が放置されていた問題を追跡取材。現在の日本社会が抱える課題の縮図ともいえる「さまよえる遺体」の実情を追いました。

引き取り手のない遺体 保管を業者に依頼していたのは…行政だった

2023年11月1日、愛知県岡崎市の国道沿いにある元葬儀場。経営難で営業をやめていたこの場所で、棺に入った2人の遺体が見つかりました。発見された遺体は、腐敗が進んだ状態で、棺の中で放置されていました。遺体の身元は、1人が2023年7月に碧南市で亡くなった独居の60代男性。もう1人は2023年10月、愛西市の高齢者施設で亡くなった80代の男性でした。

この葬儀場を経営していた元住職の男性は、廃業状態になった後も、頻繁によそから遺体が運び込まれていたと証言しました。

(葬儀場の経営者)
「おかしなことに、元従業員が遺体を(店に)入れているんですよ。きのうも行ってみたけど、遺体があったから」

遺体の保管場所としてここを使っていたのは、以前従業員だった三河地方のある葬儀業者。腐敗していたとはいえ、遺体を保管していたことに法的な問題はありませんが…注目すべき点は、業者に遺体を預けていたのが愛西市と碧南市という「行政」だったことです。

取材に対して愛西市の担当者は、「現在も男性の戸籍を調査して親族を探している」と話しました。亡くなった男性は2人とも身寄りがなく、葬儀が行われる見通しが立たないため、碧南市と愛西市は、親族と連絡が取れるまでの間、遺体の保管を業者に依頼していたのです。

遠くの業者に頼んだ理由は…価格の安さ。碧南市と愛西市の担当者は「大手の葬儀業者に比べ価格も安く、深夜や土日でもすぐ対応してくれる」「『大手よりも安くやります』と営業があった」と話していました。

墓地埋葬法では、遺体の身寄りがない場合、最終的には地元の行政に葬儀をあげる責任がまわってきます。行政にとって葬儀費用は大きな負担で、安く引き受けてくれるこの業者に頼むことが多かったということです。

行政が発注する“誰もいない葬儀” 遺体の保管料は業者の重い負担に

「身寄りのない遺体」は、政令指定都市の名古屋市でも増えています。ある日、行われていたのは“誰もいない葬儀”…市が発注した簡易な葬儀で、立ち会っていたのは業者だけです。亡くなったのはやはり、身寄りのない男性でした。

(セレモニー白壁 後藤雅夫社長)
「身寄りがいない方が多い。引き取り手がいないという方もいます。親族がいても引き取りたくない、関わりたくないという方が多い。(依頼は)ほとんど行政から」

ここでは13年前から、市やNPOからの依頼で身寄りのない遺体の葬儀を行っています。バックヤードには遺体を保管する冷蔵庫があり、取材した日も11体が安置されていました。冷蔵庫の数は、2011年は一度に6体しか入らない1機だけでしたが、今では3機に増え13体を保管できるようになりました…しかし、業者に聞くと大きな課題が。

(セレモニー白壁 後藤雅夫社長)
「(葬儀代は)20万円ちょっと。3か月預かっても、1週間でも保あ管料は一緒。痛いですね。(保管代は)持ち出しになりますからね」

行政からの依頼の場合、業者に支払われる葬儀料は、多くても20万円程度。その中から、遺体を保管するコストや、葬儀や火葬にかかる費用を業者が負担することになります。親族の確認などに時間がかかり、遺体の保管が長くなればなるほど業者の利益は減ってしまうのです。

元葬儀場に遺体が放置されていた岡崎市の2体のケースでは、保存にドライアイスが使われていましたが、そのための費用が1日1万円近くかかる場合もあるため、いずれも途中から放置され、腐敗したと見られています。

「人に迷惑をかけて死にたくない」 1人暮らしの高齢者が決めたことは

遺体の保管料の実情について、愛知県内の別の業者に尋ねました。

(名古屋市から依頼を受ける愛知県内の葬儀業者)
「(行政からの葬儀代は)15万円と消費税くらい。利益としてはほとんどないに等しい。長期間になるほど(利益は)ない。(ドライアイス代が)1日1万円とすると、かける日数になるが、それを行政に請求することはできない。保管料に関しては“サービス”」

名古屋市では、身寄りのない遺体は2018年度には134人でしたが、2022年度は実に256人と5年で倍近くに増えていて、今後も増え続けると予想されます。

こうした中、ある取り組みが始まっています。1人暮らしの80代の男性を訪ねたのは、名古屋市の社会福祉協議会(社協)の職員。男性が社協から渡されている冊子は「エンディングノート」でした。自分が亡くなった際、自分の葬儀や財産の処分をどうするのかをあらかじめ書いておくものです。男性のノートには、“葬儀なし・火葬だけ”という項目に印がついていました。

(1人暮らし 80代男性)
「人に迷惑をかけて死にたくない。生きているうちに決めないといけないことは決めて、最後はそうして終わっていきたいと思っている」

男性の自宅の玄関には、死亡した際の様々な手続きは「社協が行う」と書かれた書類が、誰でも見えるところに置いてあります。一昨年から始まったこの取り組みを利用する高齢者は現在、99人に上ります。

(名古屋市社会福祉協議会 野川すみれ副所長)
「亡くなった後のことを気にかける人はたくさんいるが、今までのように親族に頼めない人が増えている。これからも増えていくと思う」

行き場を失った「さまよえる遺体」…その背景には、“超高齢化社会”と、人と人とのつながりが薄くなった今の日本が見えてきます。

CBCテレビ「チャント!」11月15日放送より

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