「大人にこそ読んでほしい絵本も」移住の地で活躍する男性作家 読み聞かせや原画展で魅力伝える

「全ての世代の人に絵本に興味を持ってほしい」と話す糸井さん(京都府京田辺市)

 京都市内で小学校教員を務めながら、絵本作家として、これまでに9冊を出版した糸井文彦さん(52)。創作だけでなく、読み聞かせの活動にも力を入れ、約25年前に結婚を機に移住した京都府京田辺市でも絵本文化の振興に取り組む。「絵本は人と人とのつながり、コミュニケーションを生みだすツール。全ての世代に幅広く絵本に興味を持ってもらいたい」と語る。

 京都市出身。初めての創作のきっかけは約15年前、短期間に続けて両親を亡くしたこと。喪失感の中で両親、祖父母など自身のルーツを考えた。趣味の絵と、児童への読み聞かせで親しんでいた絵本で、家族のつながりや思い出を何とか形にして残したいと考えた。

 そうしてできたのが、京都府与謝野町に住んでいた母方の祖父のエピソードを基にした「おじいちゃんのイカ」。魚の行商をしていた祖父が食べさせてくれたイカの刺し身が何より好きだったことを中心に、「きらきらと輝く」夏休みの思い出を絵と文で表現した。読み聞かせで児童たちが喜んだことを機に、出版社のコンクールに応募。誘いを受けて2017年に出版に至った。同僚の娘のアイデアがきっかけとなった「くじらのカレー」「くじらのおにぎり」など多彩な作品を発表し、好評を得ている。

 絵本にまつわる高度な知識が要求される「絵本専門士」の資格を3年前に取得した。関西を中心に読み聞かせイベントなどに参加するほか、京田辺市内では「大人向けの絵本講座」を行うなど、活動の幅を広げている。今夏には市立中央図書館で初めての原画・作品展を開催し、約1週間で540人が訪れる盛況ぶりだった。

 「絵本は子どもの読み物というイメージが強いけれど、しんどい思いが和らいだり、ほっこりした気分になったり、大人こそ読んでほしい本もある」とも語る。絵本の奥深さを広く伝えていくことが目標だ。京田辺市。

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