【マレーシア】ヤマハ、マレー系の顧客拡大[サービス] 音楽需要喚起で中間層を獲得

ヤマハ・ミュージック・マレーシアは、マレーシアの音楽教室の事業で、マレー系マレーシア人の生徒増加を図る(同社提供)

ヤマハのマレーシアの販売子会社ヤマハ・ミュージック・マレーシアは、マレーシアの音楽教室の事業で、マレー系マレーシア人の顧客拡大を図る。これまでの主な利用者は子どもの教育目的の中華系マレーシア人が大半を占めていたが、上位中間層の増加を受けて、マレー系へのアプローチを強化する。需要喚起につながるプロモーションを積極的に行うことで楽器販売の拡充も目指す。【笹沼帆奈望】

ヤマハ・ミュージック・マレーシアは1972年の設立。音楽教室の運営、楽器とスピーカーなど音響機器の販売を手がける。楽器や音響機器は、主に日本、中国、インドネシアなどで生産したものを輸入販売している。

音楽教室の主な利用者は、教育目的の中華系マレーシア人が大半を占める。マレー系の利用者も増えているが、ヤマハ・ミュージック・マレーシアの片桐仁マネジングディレクターは、「人口全体に占める中華系の割合が減っているため、マレー系へのアプローチを強化していく必要がある」と説明する。

ヤマハ・ミュージック・マレーシアが運営する音楽教室では、マレー系は趣味で楽器を始める人が多く、ギターが人気となっている。その傾向を考慮し、ピアノ、ギター、ドラムから楽器を選択して習うことでバンド演奏を体験できる「ミュージック・フレンズ・コース」を導入した。ジャンルについても、「中華系はクラシック音楽を習いに来る人が多いが、マレー系はポップスなどから始める傾向がある」(片桐氏)と指摘する。

同社は2016年から、音楽や楽器の楽しさを伝えるため、公共教育における取り組み「スクールプロジェクト」の一環として、マレーシア教育省と協業で教育プログラムを展開している。17年に公立学校の課外活動の選択プログラムの一つにキーボードが採択され、ヤマハ・ミュージック・マレーシアが、全国16地域の学校404校でキーボードのプログラムを提供。片桐氏によると、同事業はマレー系の公立学校に集中して展開しており、年間6,000人が授業を受けている。

キーボードのプログラムが導入されている404校の一部では、日本のPTAのような親と教員の会と協業で、学校でミュージック・フレンズ・コースを受けられるようにしている。

■音楽教育は発展途上

マレーシアの音楽教育はまだ発展途上だという。片桐氏は、「中華系やマレー系の公立学校ではリコーダーのカリキュラムが授業に導入されているが、マレー系の学校ではまだまだ音楽に接する時間が少ない」と話す。敬虔(けいけん)なイスラム教徒(ムスリム)は宗教に関する授業の時間が長く、音楽の優先順位が低い傾向があるためだ。楽器を習ったり、音楽を聴いたりする時間がないといった声も聞かれるという。

ただ、ムスリムであっても収入の高い家庭では、国際的な教育レベルを求めるため、西洋の文化に対してお金をかける風潮が見られる。上位中間層の拡大は文化的な活動への支出を増やす人の増加につながるチャンスになることから、ヤマハ・ミュージック・マレーシアにとって追い風になる。

片桐氏は、「交流サイト(SNS)のほか、演奏会や楽器のワークショップなどのプロモーションを行うことで、音楽教室への入会を促進し、楽器の販売拡充を目指す」と説明。「上位中間層の拡大は教室に通う生徒が増えるだけでなく、ライブやコンサートに支出する人が増える可能性もあり、音響機器の需要拡大が見込まれる」と期待を示した。

ヤマハ・ミュージック・マレーシアは現在、マレーシアで音楽教室を80カ所で展開しており、約1万5,000人の生徒を抱える。教室は全州に広がったが、首都クアラルンプール中心部の教室の生徒数が圧倒的に多い。

今後は特に、クアラルンプールでも中心部から外れた地域や、クランタン州やパハン州、クダ州、ジョホール州南部のイスカンダル・マレーシア(イスカンダル開発地域=IDR)、東マレーシアでの事業強化に意欲を見せる。

片桐氏は、「交流サイト(SNS)のほか、演奏会や楽器のワークショップなどのプロモーションを行うことで、音楽教室への入会を促進し、楽器の販売拡充を目指す」と話す=10月3日、スランゴール州(NNA撮影)

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