“原点”の街

 〈…実績ある米国の高校や大学で教育を受けてきた私が、どうして被爆者のことを具体的になにも知らなかったのか。原爆投下直後のキノコ雲の下で、そしてその後何十年ものあいだ被爆者が味わった痛ましい経験を、大部分の米国人が知らないままでいるのはなぜなのか〉▲この秋にも長崎で講演した米国のノンフィクション作家、スーザン・サザードさんが谷口稜曄さん、吉田勝二さんら5人の被爆者を丹念に取材した「ナガサキ 核戦争後の人生」は彼女のこんな問いから始まる▲米国には原爆正当化論も根強い。〈原爆投下の必要性についての質問に答える時、私は被爆者の体験に目を向けるよう人々を促す〉-これでも「原爆投下は正しかった」と言えますか。彼女は静かに問う▲長崎市の鈴木史朗市長が米ニューヨークの核兵器禁止条約締約国会議でスピーチに臨んだ。「混迷の今こそ原点に立ち返る時」「核戦争が地球と人類に何をもたらすのか-の根源的な問いに向き合う時だ」▲市長は訴えた。「核使用が人類にもたらす結末を知ることは核なき世界への出発点であり、世界を変える原動力だと確信する」▲長崎の重い使命を再認識しながら、ずっと“最後の被爆地”であり続けるために私たちに今できることは-と、いつもの問いをかみ締める。(智)

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