頭痛に倦怠感、コロナ後遺症と闘った8カ月 「サボりと思われつらかった」青春を失いかけた16歳の叫び

「コロナ後遺症」で苦しんだ期間のつらさをグラフに示して話す魚橋和叶奈さん=高砂市内

 私の青春、終わったな-。全身に重りが乗っているようで、昨夏ごろから約8カ月間、一日の大半を寝たきりで過ごしていた兵庫県加古川市の高校2年魚橋和叶奈(わかな)さん(16)は天井を眺めながらそう思った。原因不明の頭痛に倦怠感(けんたいかん)。体力には自信があったのに、なぜ-。さまざまな医療機関を巡り、たどり着いた原因は「コロナ後遺症」。治療を受け、徐々に体調は上向いてきた。今春から通信制高校サポート校に通い、青春を取り戻しつつある。(中川 恵)

朝起きられず

 2022年3月、高校入学を控えた春休みに新型コロナウイルスに感染した。親元を離れ、県内の公立高校に入学、寮生活が待っていた。外出自粛期間を終えた直後の4月の入学式。動悸(どうき)と倦怠感で立っていられず、保健室へ行った。教員から「初めての寮生活で睡眠不足だったのでは」と言われた。

 中学では運動部に所属し、体力には自信があった。しかし体調は悪化の一途をたどる。授業中、教員の話が頭に入らない。朝起きられず、カーテンを開けるのも友人に頼んだ。手足が異常に冷えて震えた。それでも、毎日学校へ通った。

頑張ると症状が悪化

 病院では起立性調節障害と診断された。5月末、初めての中間試験前は長時間いすに座れず、寝ながら勉強した。休学も頭をよぎった。しかし、大切な友達のいる寮にいたかった。「いつか治るだろう」と思っていた。

 そして倒れた。「頭の先から指先まで、重りが付いているよう。動かせない」。後から分かった話だが、これは頑張って動いた後に数日間寝込んでしまう「クラッシュ」だった。コロナ後遺症で注意しなければならないことの一つとされ、発症すると症状の悪化につながるという。

 「なんでしんどいんやろう」。さまざまな病院を受診したが、原因は分からない。処方される漢方の量だけが増えていった。期末試験と球技大会を終えてまたクラッシュを起こした。

食事も体を横に向け

 夏休みはほぼ寝たきりで過ごした。「力士が3人上に乗っているよう」。体を起こせず、寝転がったまま。食事も体を横に向け、母佳代子さん(51)が口に運ぶ。立ち上がれず、トイレも母に連れていってもらった。2学期も試験だけは受けようと、泣きながら学校へ向かい、倒れて帰ってきた。

 家で寝たまま天井を眺める日々。「立てるときは来るんか」。自分の部屋にいると気持ちが沈むので、リビングで寝転がって過ごした。

大阪のクリニックへ

 父良平さん(53)は8月ごろ「コロナ後遺症ではないか」と疑い始めた。交流サイト(SNS)などを通じ情報収集を行い、コロナ後遺症の治療に取り組む大阪のクリニックを見つけた。12月、わらをもすがる思いで連絡した。

 医師から丁寧な説明を受け投薬を開始。効果が出始め、起きられる時間が増えた。学校は次の学年に上がる選択肢を残してくれた。みんなと一緒に過ごしたいが、寝たきりには戻りたくない-。苦渋の選択で退学を決めた。

 今年4月、明石市の通信制高校サポート校に入り、新たな生活が始まった。自由な校風に戸惑いながらも新たな生活を満喫する。現在は体調が9割戻ったが、筋力の低下や疲れやすさが残る。治療の一環で出会った整体師に感銘を受け、将来は整体師になりたいと思う。

無理をしないで

 新型コロナに感染した後、ひどい倦怠感に苦しむ人がいる。コロナ後遺症のうち1割が激しい倦怠感で日常生活に支障が出る「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群」の診断基準を満たす症状が出るともいわれる。和叶奈さんの主治医はこう話したという。「コロナ後遺症で困っているのは学生。退学になるので無理をして動いてしまう」

 和叶奈さんも「サボっていると思われたのがつらかった。コロナ後遺症に対する理解が深まってほしい。無理したらだめということを分かってほしい」と話した。

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