アレ

 目標をはっきり言わない日本や日本人の奥ゆかしさ-この言葉が注目され始めた頃、そんな解説をどこかで読んだ。特定のグループの中だけで通じる「隠語」には所属メンバーの仲間意識を醸成する効果もあるらしい▲今年の「新語・流行語」の大賞にプロ野球阪神タイガース・岡田彰布監督の「アレ」が選ばれた。選手たちに「優勝」を意識させすぎないように…そんな“親心”の産物、初出は別のユニホームを着ていた2010年というから実はなかなか歴史も深い▲さて、リーグ優勝、日本一に続いて阪神ファンに「そらそうよ、おーん」と3度目の笑顔が広がった同じ日、自民党アレ派、いや安倍派の裏金疑惑が表面化した▲派閥の政治資金パーティーに際し、所属議員にパー券の販売ノルマを課して、ノルマを超えた集金分の収支は報告せず、議員側に還流していたとみられる。こちらは闇が深い▲関係者はパー券や還流マネーを「アレ」などと呼んではいなかったか、と想像を膨らませたら熱いトラ党に叱られるだろうか。後ろ暗い仲間意識を共有しながら表だって口に出せない事柄を…隠語本来の用途だ▲同派出身の閣僚が4人。政権への影響も予想される。また少し内閣の「アレ」が近づいているように思われてならない。もちろん、優勝ではない。(智)

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