山形の田宮印刷、社名「フロット」に 来年1月1日付、印刷以外の事業拡大

100年以上親しまれた「田宮印刷」の名称変更の決断について、思いを語る阿部和人社長=山形市・同社

 1907(明治40)年創業の田宮印刷(山形市、阿部和人社長)が、来年1月1日付で社名を「フロット」に変更する。人口減少で印刷物需要が縮小し、印刷にとらわれずデザインやマーケティング、デジタル分野に力を入れる方針。阿部社長は「社名には誇りや愛着もあるが、市場の要求に応え、コンパクト化する事業と強化する事業を分けることが企業には必要だ」と話している。

 田宮印刷が完全子会社のフロット(同、同)を吸収合併した上で、存続会社の社名を変更する。印刷事業は継続する一方で、これまでフロットが担ってきた事業領域に軸足を移す。

 田宮印刷は現在の河北町で役人を務めた田宮五郎氏が創業し、戦後は山形市を拠点に成長した。子会社のフロットは、人口減少やインターネット普及による印刷市場の縮小が進む中、2010年に設立。企画、デザインなどのソフト部門を分社化して担い、印刷会社の枠にとらわれない営業活動を行った。中小企業の総合的なブランディング支援やコンサルティングなどに事業領域を拡大。本県や宮城県を中心に大学の広報支援事業も手がけ、21年には宮城大の広報デザインに関し、同大などとともにグッドデザイン賞を受けた。

 フロットの成長に伴い、田宮印刷が強みを持つ製造力や営業力と、相乗効果を発揮する場面が増えたという。印刷以外の事業を柱とする両社再統合を検討する中で、社名から「印刷」を外し、さらに117年続いた「田宮」の看板を下ろすことを決めた。

 慣れ親しまれてきた社名がなくなることに社内では反対の声もあったという。吸収合併後の新会社の将来について全社員が議論するプロジェクトを経て、フロットを「自分たちの会社」と考える雰囲気が醸成されたとする。阿部社長は「大量生産の印刷需要が縮小する今、求められるのは付加価値の高さ。新しい会社の自由な発想で、それを提案していきたい」と話す。

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