「体力が尽きて倒れていく…そこで死んでいくしかないんだよ」経験者の体験を一冊の本に 「忘れちゃいけない、伝えていかなきゃいけない」高校生が描く“シベリア抑留”【SDGs】

戦後、旧ソ連軍によって、57万人以上の日本人が連行され、強制的に働かされたシベリア抑留。静岡市に住む女性は抑留者となった父親の体験を本にまとめました。「戦争の悲惨さを子どもたちに伝えたい」。そんな思いから、高校生とともに絵本をつくるプロジェクトが進んでいます。

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<生徒>
「きれいだな…いっぱいあるな ラッパ付きのバイオリン」

放課後、教室に集まっていたのは、清水南高校美術部の2年生です。描いていたのは、シベリア抑留について書かれた本の1シーンです。

<清水南高校2年 池田凪那さん>
「最近経験した人も高齢化してきて、若い自分たちがどうやって残していけばいいかな」

「シベリアのバイオリン」。戦後、旧ソ連軍によってシベリアに抑留され、強制収容所で過酷な労働を強いられた日本人の物語です。主人公は、静岡市の窪田一郎さん。17歳で満州に渡ったのちに、戦後3年間のシベリア抑留生活を送りました。

捕虜生活の中で、大好きなバイオリンを弾きたいと、廃材を集めてバイオリンをつくり、やがて楽団が生まれるという実話です。

作者は、窪田一郎さんの長女・由佳子さんです。

<窪田由佳子さん>
「私の父はシベリアの体験を家族によく話してくれていたんですね。まだ子どもで特別な興味も持たずにきてしまったんですけど、自分も人生の後半を迎えて、文章を書くことに興味を持ち始めて、何か書こうと思ったときに父の体験がすぐに頭に思い浮んだ」
Q.いつごろのものですか?
「父が書いたものです。亡くなるちょっと前だったと思います」

「腹が空きすぎて、みんな理性を失っていく」劣悪な環境の中で働かされた一郎さんの抑留生活が描かれています。

<窪田由佳子さん>
「ロシア兵に捕らえられて、何日も何日も歩かされた。そのときに、そこで体力が尽きて、倒れていくと、そこで死んでいくしかないんだよ。その人たちが助けてくれとか、お水くれと言っても、誰も助ける余裕がなかったよと」

しかし、希望を捨てず、電気のコードや馬の毛などの廃材を利用し、こっそりと大好きなバイオリンを手作りしたのです。

<窪田由佳子さん>
「何も材料がなくて、設計図もない中でよくも作ったなと。音楽や演劇の仲間もできて、それを見て喜んでくれる人たちも現れる。そこからは全然生活が変わったわけですよね。ずいぶんたくましく生きてくれたんだなと」

子どもたちにもわかりやすく伝えるため、絵本を出版することになり、清水南高校の生徒が挿絵を描くことになりました。

<清水南高校2年 栗田埜々花さん>
「作者が来てくれたんですけど、熱意を込めて書いた感じがして、(戦争は)やっぱり忘れちゃいけないから、伝えていかなきゃいけない。私たちに託してくれるなら協力してみたいなと思ったので立候補しました」

先週行われた、生徒5人による絵本の挿絵の発表会。

<清水南高校2年 近石彩佳さん>
「一郎たちの絶望感が消え去って明るくなるように赤と黄色を使っています」

<清水南高校2年 多田つむぎさん>
「絵ではないんですけど、影が映って作品となる。シベリアの辛さを経験していないという時点で私たちにとってリアルじゃない。物陰に隠れて私たちは参加できずに見ている」

<窪田由佳子さん>
「みなにしっかり私が書いた物語の意味や伝えたいことが伝わっているんだなと思ってすごくうれしかったです」

窪田さんや出版社の社長らを前に、それぞれが本を読んで感じた思いを伝えました。

<清水南高校2年 栗田埜々花さん>
「美術を学んでいるという状況において、すごくいい経験になったと思いました」

<清水南高校2年 多田つむぎさん>
「絵本は子どもだけじゃなくて、高校生も大人も楽しめるものだと思うので、幅広い年代の人にとってもらえるような絵本になったらいいなと思っています」

審査の結果、影絵の作品を考えた多田さんが選ばれたということです。絵本は2024年、出版される予定です。

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