止まらない政治家の「失言」… 法的処罰より恐れるべき “いくつかの”リスクとは

失言は本人も思いもよらぬ政治家ならでが「リスク」が伴うのだが…(Graphs / PIXTA)

「吐いた言葉飲み込むなよ、オマエ!」。相手の挑発に対し、現役時代にプロレスラーの長州力がよく返していた言葉だ。もとは、<吐いた唾は呑めぬ>ということわざ。「一度口から出した言葉は取り消せない」という意味だ。

吐いたツバ”を丸呑みした馳石川県知事

その長州力のプロレスの弟子にあたる馳浩石川県知事が、吐いたつばを飲み込んでしまっている。

馳・石川県知事(以下馳知事)は、11月17日に都内の会合で、東京五輪招致活動中の話として当時、安倍晋三首相から「必ず勝ち取るように」「カネはいくらでもある」などど話されたとし、IOC委員に対し、各人の選手時代のアルバムを1冊20万円で作製して贈呈するなど、推進本部長として暗躍したことを明らかにした。

その直後、事実誤認もあるなどとして発言を全面撤回。大量に吐いたツバを、ゴクリと丸ごと飲み込んでしまったのだ。

いまもリングに上がる馳知事にすれば、ちょっとしたリップサービスのつもりだったのかもしれない。だが、吐いたツバは国家機密。当たり前だが、ひとたび口にした言葉は「撤回」と言ったところで二度と取り消せない…。

政治家のトラブル解決に精通する弁護士の見解は

政策秘書および市議会議員などを務めた経験もあり、政治家のトラブル予防や解決などのノウハウを豊富に有する三葛敦志弁護士は、この失言について、「実は政治家には守秘義務がないことが多いんです」と意外な事実を明かした。

続けて、「失言に重篤度があるとすれは、例えば刑事罰、あるいはすぐに賠償の話になりそうだとか、そういう極めて重大な法的な問題が生じるかどうかが一つの基準になってきます。今回のケースはそうした要素はなさそうです」と三葛弁護士は見解を示した。

その上で、「そうはいっても、ものすごく社会的に影響が大きいものは世論がどう受け止めるか。それは重篤度とは別の軸で、発言者やその周囲に大きな影響となって返ってくることになるでしょうね」と、三葛弁護士は発言内容が世間にどれだけのネガティブな影響を与えるかが、馳知事の命運を左右するポイントになると指摘した。

脈絡のないタイミング、火の粉が飛ぶはずの安倍首相は他界、東京五輪招致におけるスキャンダラスな内容だったものの「やっぱりそうなんだ」的な印象…。馳知事にとっては、マスコミの執拗な追求を受ける羽目になり、自分で自分の首を絞めただけの無用な失言だったといえる。

そのせいか、失言以降、だんまりを決め込む馳知事に“らしさ”はない。このまま、嵐を耐えしのげればお咎めなく、やり過ごせるのか…。「当然ですが、発した言葉はもう取り消せません。ですから、仮に安倍首相がご存命で、『アノ発言は名誉棄損だ』などと訴えた場合には法的責任を問われる可能性も出てきますが、もういませんからね」と三葛弁護士。

法律以上に世論の判断が重要

そうした状況も踏まえつつ、三葛弁護士は「一般に政治家にとっては法的な問題はないといっても、発言内容やその後の対応の仕方で世論の反感を買えば、次回の当選が厳しくなりますし、極限までいけば、辞任という選択しもちらつくかもしれません」と、世論の反応次第では、民主主義の原理原則で有権者から”裁き”を受ける可能性があるとした。

併せて、「今回の失言にあった官房機密費は、説明が適当でないとされる、ある意味特殊な予算。ですから私がアドバイスできるとすれば、この件についてはとにかくもう新しいことは話さないことです」(三葛弁護士)とこのまま黙秘し続けることが賢明とした。

ネット時代に脅威になった家族への誹謗中庸リスク

政治家のだんまりは常套手段だ。世論の批判もやむなしの後ろ向きな手段といえるが、ネット時代は”嵐”の性質が変質しているという。三葛弁護士が解説する。

「政治家が沈黙していると必ず説明責任を問われます。それでもだんまりを続けていると、ネット上で当人はおろか、その家族への誹謗中傷がなされたりするケースが増えています。『公人だから、いくら叩いてもいいんだ』という考えもあるようですが、公人も人。ですから守られるべきものはあるというのが私の考え。そうした部分のケアもより重要になっているのがむかしと違う点ですね」

沈黙は金なりというが、今回の舌禍事件、ことわざ的には「後悔先に立たず」というのが、的確のようだ。

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