社説:核禁条約と日本 目を背けたままなのか

 核兵器禁止条約の第2回締約国会議が米国の国連本部で開かれた。採択した政治宣言は「核なき世界」の実現を急務とし、核抑止論からの脱却を訴えた。

 核の威嚇を続けるロシアのウクライナ侵略は長期化している。パレスチナ自治区ガザを侵攻するイスラエルは事実上の核保有国で、閣僚からは核使用を「選択肢」とする発言もあった。中国も核戦力を増強している。

 核兵器の非人道性を軽視するような国際情勢の中、宣言は「人類が核による破滅に近づく局面を傍観するわけにいかない」と強い危機感を示した。あらゆる国が真摯(し)に受け止めねばならない。

 宣言は、高まる脅威の背景に核の威嚇に基づく核抑止論があるとし、核保有国や、日本などが頼る「核の傘」について「核兵器に偽りの信頼感を与え、核軍縮の進展を阻害している」と非難した。

 さらに、保有国に対して核拡散防止条約(NPT)が定める軍縮の交渉義務を果たしていないと批判した。昨年のNPT再検討会議は、ロシアの反対で最終文書が採決できず決裂している。機能不全が深まるNPT体制への警告にほかならない。

 日本は核禁条約に署名せず、前回会合に続いてオブザーバー参加すら見送った。「核保有国が参加していない」との理由だが、唯一の戦争被爆国としての責務を放棄しているとしか思えない。

 同じ米国の同盟国であるオーストラリア、ドイツは前回に続きオブザーバー参加した。ドイツ政府代表は会合でロシアや中国への警戒感から核抑止力は必要と訴えつつ、「核なき世界への思いは共有している」との立場を示した。

 日本は議長国を務めた5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で核軍縮の重要性に焦点を当てた文書をまとめており、廃絶の議論に加わらない矛盾は明らかだ。被爆地広島選出の岸田文雄首相の姿勢が厳しく問われよう。

 核禁条約は69カ国、NPTは191カ国が加盟している。双方の「建設的な協力」に向け、核禁条約加盟国のタイとアイルランドが、NPT側との調整役を務める。

 「橋渡し役」を自任する日本は傍観するだけなのか。

 今回の会議では、核の被害者の支援や汚染された環境の修復のための国際基金設立に向け、議論する方針も決めた。こうした分野は、被爆国の経験と知見こそ生かせるのではないか。具体的な行動に移すべきだ。

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