“プロフットゴルファー”とは何者か?/フットゴルフな人々 vol.5 青木剛

サッカー元日本代表の青木剛さん(撮影/今岡涼太)

この道はいったいどこにつながっているのだろう? 世界40カ国以上でプレーされ、米国では現在500コース以上で楽しめるフットゴルフ。これはそんな新スポーツに魅了された人々の素顔に迫る連載インタビューである。

第5回はサッカーの名門・前橋育英高校から鹿島アントラーズに入団し、2007年から09年のJリーグ3連覇を主力として支えたサッカー元日本代表の青木剛さん。現役引退した22年にフットゴルフを始めると、同年早くもジャパンツアー初優勝。23年ワールドカップに日本代表として出場するなど一気にトップ選手へと駆け上がった。

―近況を教えてください
これまで南葛SC所属のプロフットゴルフ選手として活動してきましたが、今年8月に日本初のプロフットゴルフクラブ「鹿島アセンディア」が立ち上がり、移籍することを決意しました。南葛SCに大変恩を感じていたので心苦しい気持ちも強かったですが、この先フットゴルフを本気でやっていくことを考えて決断しました。

―プロフットゴルフクラブとはどんな組織なのですか
母体は野球を軸にしたイベント会社なのですが、知人の紹介で代表に会って「フットゴルフの活動を本気でしています」という話をしたら、フットゴルフもどんどんやっていきたいということで、最初はトライレイクゴルフクラブ(茨城県鹿嶋市)でゴールホールを使ったイベントを実施しました。その流れでフットゴルフ界のためにプロクラブを作りたいと言ってもらい、少しずつ気持ちが動きました。

鹿嶋市に住んでいるので、地元で活動できる魅力もあります。鹿島アセンディアの理念は「選手として高みを目指す」と「フットゴルフを普及・発展させていく」こと。プラスアルファとして「地域活性化」もあり、立ち上げから2カ月ほどで徐々にそれも感じられるようになっています。実際、すごいスピード感でトライレイクさんにカップを埋めてもらえることになり、この活動には夢があるなと感じています。

プロフットゴルファーとして活動を続けている(撮影/今岡涼太)

―青木さんはゴルフもやっていたそうですね
鹿島アントラーズのクラブハウスがトライレイクから数分なので、オフの日にショートコースを回ったり、隣にある打ちっ放しで練習したりしていました。やっていたと言えるレベルではないですが、ゴルフ漫画「風の大地」が好きだったんです。深いことが書いてあって、ただの漫画じゃなくメンタル的なバイブル本として読んでいました。最近、作画者が亡くなったんですよね。いつも良いところまで行くのにトラブルが起きて優勝できないみたいな流れで、続きが気になっていたのですが…。

サッカーとフットゴルフは似て非なるもの(撮影/今岡涼太)

―サッカーとフットゴルフでどんな違いを感じていますか
サッカーは試合前の緊張はあるんですけど、動いているとだんだん緊張感は薄れていきます。でもフットゴルフは打つ前に体が震える時があって、サッカーにはない感覚ですね。1打の重みを感じたときに体を思い通り動かす難しさがある。あとは、次打地点に向かう際や他選手のプレーを待つ際などに時間があって、結果がちらついたり、どうやって蹴ろうかなと考えたりする。プレーヤーとしての自分と指令役として俯瞰(ふかん)しているもう一人の自分がいる感じです。僕は結構考えて全部明確にした上で実行に移したいタイプなので、そこの感じ方も違いますね。

―青木さんはご自身のサッカー人生をどう総括しているのですか
「やり切れた」という感覚が強いですが、若い時の志が低かったなとも思います。周りがすごく期待してくれて、鹿島アントラーズに入団しました。でももっと志が高ければ、もっと上を目指せたんじゃないかなとも思います。今は海外移籍も当たり前ですが、当時は志が高い人だけが海外に出ていく時代でした。自分は「アントラーズで優勝する」という志はありましたが、「日本代表で活躍する」や「海外に飛び出してプレーする」なんてことは明確に持てていなかった。そこまで行った人たちは最初からその志を持っていたはずなので、そこは足りなかったなと思います。

―フットゴルフでかなえたい一番大きな夢はなんですか
まず日本一。その先の世界一が目標です。選手としては実績や結果が大事ですし、クラブとしても日本初ということで少なからず皆さんも気にはなっていると思うので、自分たちが形作っていくことがこれからのフットゴルフ界につながっていくと信じて、ぶれずにやっていきたいです。

目指すは世界一のフットゴルファー(撮影/今岡涼太)

―フットゴルフを始めて1年半。ここまでの自己評価は?始めた当初、すぐに良いところまで行けるだろうみたいな感覚はありましたか?
やっぱり勘違いから始まっていますよね。蹴るのは得意だし、ゴルフもやったことがあるので、傾斜はある程度見えるだろうと思って出た最初の大会で34位。「フットゴルフって深いな」と思って猛練習して、2大会目でビギナーズラックもあって最終組に入りました。でも、最終ホールでマネジメントも何も考えずに蹴ったキックが OBになり「サッカーを捨てないと駄目だな」と悟りました。サッカー脳ではなくフットゴルフ脳があると気が付いた。そこから本当に始まった感じです。

1年半が過ぎましたけど、いまだに大きいミスが出てしまう。いつかは完璧なラウンドをしてみたいけど、タラレバが必ずある。現場で気付けよって話なんですが、終わってからやっと気付ける。この競技を続けている限り終わらない旅だと思いますが、大会の帰り道は毎回そんなことを思いながら車で移動しています。結構、移動距離が長いので…(笑)

まだ多くの人は気づいていないその魅力(撮影/今岡涼太)

―フットゴルフ愛が伝わってきますね。どういうところが面白いと感じますか
厳密に言えば一つとして同じ状況がなく、同じホールでも風や湿度、午前午後、夏芝冬芝によって球の走り方が変わってくる。体のコンディションで蹴れる日、蹴れない日もあったりして、アジャスト能力をずっと試されるところがめちゃくちゃ深いなって思います。僕が知る限りジャパンツアーで土日連勝した人はいないんです。「なぜだろう?」といつも思っていて、いつかはやってみたいですね。

―フットゴルフ界に身を置いてサッカー界との違いを感じるのはどんなところですか
フットゴルフを始めて感じたのは、フットゴルファーはプロじゃないかもしれないけど、向き合い方がプロだなと思う選手、尊敬すべき選手がいることです。よく「プロってどういう考え方ですか?」などと聞かれますが、フットゴルフで上位にいる選手は僕の方が勉強になるし、いつもすごいなと思わされます。

例えば、フットゴルフはエンジョイ系の大会も多いですが、そんな時にも自分を保ち、1打1打にこだわってプレーしたり、風が強かったり、雨が降ったりしていても、勝つ選手はちゃんとスコアを出してくる。周りの環境や人のせいにしないのは結構大事なことだと思います。僕もまだまだ意識が足りていませんが、自分にベクトルを向けることを戒めにしています。

大好きなことを極めたい(撮影/今岡涼太)

―ブログにあったヒッチハイカーの話が面白かったです
静岡からの帰りですね。長い道のりで、サービスエリアに寄ったら「海老名まで」って紙を掲げている若者がいたんです。息子の年齢に近い10代の子で、面白いなぁと思って直感的に乗せました。「どこまで行くの?」と聞いたら「最終は東京」と言うので「じゃあ帰り道だから」と。とにかく、その行動力に感銘を受けたんです。

動画編集をやっているカメラマンで、ヒッチハイクで東京まで行く目的もカメラの講習会でした。普通だったら遠いし、お金がないから無理だって諦めるじゃないですか。それを「ヒッチハイクなら行ける!」って思うマインドがすごいし、好きなことに素直になるって良いことだなって自分にも重なったんです。

やっぱり周囲は「フットゴルフだけでやっていけるの?」みたいなところがあるけれど、マイナーだろうが何だろうが関係なくフットゴルフが好きだから極めたい。大好きだし、やればやるほど深いと思えるスポーツで、サッカーを引退してからこういう競技ができている僕はすごく幸せだと思います。この面白さが知られていないからまだ認知度も低いのかもしれないけど、ゴルフのようにいろんな人がやれるスポーツだし、可能性はかなり秘めていると思っています。

(取材・構成/今岡涼太、撮影協力/トライレイクゴルフクラブ)

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