社説:秘密保護法10年 懸念募る不透明な運用

 多くの国民の反対を押し切って特定秘密保護法が制定されてから10年を迎えた。

 政府による恣意(しい)的な秘密指定や情報隠しの可能性が否めず、いまなお国会監視が十分に機能しているとは言い難い。

 同法は、政府が安全保障上、特に秘匿すべきと判断した情報を「特定秘密」に指定し、公務員らの漏えいに厳罰を科す。機密情報を適正に管理し、米国などとの共有を促すのが狙いとされる。

 2013年12月、第2次安倍晋三政権が外交・防衛政策を統括する国家安全保障会議(NSC)の発足に合わせ、法制化を急いだ。

 特定秘密は年2回、指定件数が公表されるものの、秘匿の理由など詳細は明らかにされない。

 今年6月末時点で、防衛省など13行政機関で計735件に上る。ほぼ解除されずに累積し、法施行直後の14年12月末の382件に比べ2倍近くに増えている。

 法成立10年に際し、松野博一官房長官は「関係国から核心に迫る情報が得られるようになった」と強調した。だが、成果の検証さえ難しい。「何が秘密か、それが秘密」とやゆされる通り、実態は極めて不透明と言わざるを得ない。

 この間、関連文書の誤廃棄や、特定秘密が含まれていないページに「特定秘密」と表示するといった法令違反も発覚し、不適切な情報管理があらわになった。

 とりわけ昨年12月には、海上自衛隊の1等海佐が元海将のOBに特定秘密を漏らしたとして、懲戒免職された。ただ、刑事事件としては不起訴処分に。検察は特定秘密に当たるかどうかの立証が困難と判断したとみられ、これも定義の曖昧さに起因する。

 いかに運用の透明性を確保するのか。国民の「知る権利」を侵害する懸念は膨らむばかりだ。

 監視の仕組みとして内閣府に独立公文書管理監を置くが、いわば「身内」であり、期待できない。

 衆参両院に情報監視審査会があるとはいえ、政府に運用改善を求める勧告は海自の漏えいを巡る1件に過ぎず、形式的な指摘がほとんどだ。これでは十分に使命を果たしているとは言えない。

 破棄や改ざんなど公文書のずさんな扱いが批判されがちだが、政府が得た情報は国民のものだ。

 特定秘密も例外ではない。なし崩し的に範囲や件数が膨らんでいかないよう、外部からチェックする国会の機能強化が欠かせない。法の規定や運用の問題点について見直しの議論を求めたい。

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