高齢運転者問題 任意保険 未加入のケースも 免許返納 事故後了承も翻意 公共交通機関減 県警「地域でも考えて」

高齢運転者による交通事故の原因の半数近くは運転操作ミスなどによるものだという(写真はイメージ)

 近年、高齢運転者による交通事故に社会的な関心が高まっている。長崎新聞社の双方向型報道窓口「ナガサキポスト」などにも、任意の自動車保険未加入や免許返納の問題に関する意見が届いた。長崎県警は「(高齢運転者問題は)単に交通事故防止だけの話でなく、将来の道路交通やまちづくりにも直結する」とし、地域でも考えていくべき課題だと指摘する。

■修理代「知るか」
 9月中旬、長崎県内の離島で高齢男性が運転する軽乗用車の後部が建物に突っ込む事故が発生した。建物を管理する川田さん=仮名=によると、駐車場で車を後退させていた際、アクセルを踏み込みすぎて縁石を乗り上げ、衝突。建物の外壁、内壁にひびが確認された。
 警察の事故処理が済み、相手の損害保険で修理してもらおうと、男性に電話をかけると、耳を疑う言葉が返ってきた。「任意保険なんて『任意』だから入っていない」。修理代の支払いを求めると「知るか」と逆上した。
 川田さんが専門業者に確認したところ、内壁のひび割れが深刻で修理代は数百万円に上る可能性もある。川田さんの保険会社の担当者を通じて男性と話しているが、年金生活で支払い能力はほぼないという。川田さんは「被害者が泣き寝入りするしかないのはおかしい」とあきれ、「人をはねて死傷させていたらもっと大変なことになっていた。任意といっても、責任を持てない人が身近に運転しているのは怖い」と話した。
 保険会社の担当者は、保険未加入の高齢者による交通事故で補償の支払いに困る案件を他にも数件抱えているといい、「地域によっては『車にあまり乗らないから保険に入らなくてもいい』という雰囲気がある」と明かす。

■「反省してない」
 一方、高齢者による交通事故が起きるたび、議論に上がるのが運転免許の返納問題。長崎市内で交通事故に遭った50代の男性、吉元さん=仮名=も「事故が起きてからでは遅い」と高齢運転者に返納の検討を求める1人だ。
 吉元さんは9月下旬、横断歩道を渡り始めた際、信号無視で走ってきた80代男性の軽乗用車にはねられた。足やあばらを骨折する重傷で約2カ月入院。現在もリハビリで通院している。
 吉元さんは2年前、注意力の低下を心配し、80代の父を説得して免許を返納させた経験があった。今回も男性が病院に見舞いに来た際、返納を促し、男性も了承したという。しかし、後日会うと「車がないと生活が不便」と自己都合の話に終始し、ついには「(免許取り消し期間の)2年たったらまた免許を取る」と主張。吉元さんは「反省していない」とため息をつく。
 9月末現在、県内の免許取得者82万8291人のうち、65歳以上の高齢者は23万5948人(28.4%)。本年度は同月末時点で3222人の高齢者が免許を返納した。
 返納者への支援として、自治体によるバスやタクシーの利用券配布や民間事業者による買い物時の割引サービスなどが実施されている。だが、公共交通が脆弱(ぜいじゃく)な地域では車が欠かせない人も多いのが実情だ。
 県警交通企画課の山口秀和管理官は「利用者減による公共交通の減便などで高齢者の移動手段の確保が難しくなっている。免許返納は単なる事故防止だけでなく、将来の道路交通、コミュニティー、まちづくりに直結する重要な課題」と強調。運転については「夜など視界が悪い時や体調が優れない時などは控え、年齢による身体機能の衰えを感じたら家族や警察に相談してほしい」と話す。

 ◎県内の高齢運転者による事故

 県警交通企画課によると、今年11月末までに県内で発生した交通事故は2361件。65歳以上の高齢者が関係する事故は910件(38.5%)で、このうち高齢者が第1当事者(事故に関与した中で最も過失の重い者)となったのは651件だった。原因の半数近くは、前方不注意や運転操作ミスなど安全運転義務違反によるものだという。

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