社説:自民「裏金」の波及 もう、ごまかしでは済まない

 もはや、一時しのぎのごまかしでは逃げられまい。

 自民党派閥の政治資金パーティー券問題で、最大派閥「安倍派」所属の松野博一官房長官が、最近5年間で派閥から販売ノルマを超えた売り上げ計1千万円超のキックバック(還流)を受けていたとみられることが、明らかになった。

 東京地検特捜部は政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)の疑いで調べる。一連の疑惑が政権の要を直撃した形だ。きのうも岸田文雄首相や松野長官は国会で苦しい答弁を重ねた。

 当面のパーティー開催自粛でお茶を濁すようなことは許されない。首相は「裏金」の実態を徹底して調査、説明するとともに、「ザル法」と呼ばれて久しい政治資金規正法の改正で、企業・団体からの献金を全面禁止にすることを強く求めたい。

 パーティー券問題では、安倍派全体で5年間に1億円超が少なくとも10人以上に還流されていたことが判明している。松野氏は2019~21年、安倍派の実務を担う事務総長だった。

 自民のパーティー券は1枚2万円が相場だ。99人が所属する安倍派は当選回数などに応じ販売ノルマを設け、超えた分は派閥から議員側に戻すことが長年の慣習になっていたとされる。

 超過分のやりとりは、規正法に反して派閥、議員双方の政治資金収支報告書に記載せず、表面化させないことで自由に使える裏金にしていたという。

 券を売るほど自分の実入りになる仕組みで、議員側の意欲を高める狙いとの声も聞かれる。

 二階派も同様の還流があり、特捜部が解明を進めている。

 国会議員は月々の歳費や期末手当で年2千万円超の収入があるほか、領収書なしで使える調査研究広報滞在費(いわゆる文通費から改称)年1200万円が支給される。JRの無料パス、3人分の秘書給与費、所属党会派への立法事務費なども国民の負担で賄われる。

 さらにリクルート事件やゼネコン汚職を踏まえた1990年代の「政治改革」で、癒着を招く企業・団体からの献金を原則禁じるため、政治資金を国民の監視下に置く規正法を定める代わりに、年300億円を超える税金で政党を助成している。

 これだけの国費をもらいながら、法の「抜け穴」であるパーティーや政党支部で献金を受け、あまつさえ裏金を作るとはどういう了見なのか。国民の常識とかけ離れた自民積年の悪弊を、今こそ絶たねばならない。

 しかるに、岸田首相が自民党総裁として指示したのはパーティーや新年会、忘年会の当面自粛だ。自身が会長を務める岸田派を在任中だけ離脱するとも言う。この甘さと危機感の欠如にはあきれるばかりだ。

 献金が政治の不信や腐敗を招いている実態を、経済界も直視して声を上げてもらいたい。

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