中学受験シーズン到来、鉄道ファンには実はチャンス問題が多い?(前編) 地理、環境問題、計算問題…取り上げられやすい理由とは「鉄道なにコレ!?」【第53回】

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

中学校の入試会場に入る子どもたち=2021年2月、東京都練馬区

 年が明ければ、中学受験シーズンが本格化する。少子化にもかかわらず首都圏では受験者数と受験率の増加が続いており、受験生の皆様とご家族も出題傾向の分析や健康管理に余念がないことと思う。本連載「鉄道なにコレ!?」を「読んでいる時間もない」と思った方は、ちょっと待ってほしい。実は、中学入試問題は、鉄道ファンにとってチャンスとなる問題が少なくないからだ。今回の前編と後編の2回にわたり、鉄道が教科を問わずテーマとなりやすい背景のほか、過去の出題例と解答、さらに2024年入試において鉄道関連で予想されるテーマについてもお届けする。読者の皆様も答えを考えていただけるように記事前半で触れた例題や過去問の解答は後半でお伝えするので、ぜひチャレンジして腕試しをしてほしい。(共同通信=大塚圭一郎)

※筆者が「共同通信Podcast」で音声でも解説しています。【きくリポ・鉄道なにコレ!?特別編9】中学受験、鉄道ファンには実はチャンス問題が多い?


 ▽あらゆる教科で鉄道は題材の宝庫
 子どもが中学受験を経験した親御さんから「鉄道に関する問題が入試に結構出ているが、どうしてか?」と尋ねられた。2022年は西九州新幹線が武雄温泉(佐賀県武雄市)―長崎間で9月23日に部分開業し、日本で最初の鉄道路線が新橋(現在の汐留地区)―横浜(現桜木町)間で開業してから現在の太陽暦(グレゴリオ暦)で10月14日に150年(本連載第34回参照)を迎えたのを背景に、23年1~2月の中学入試ではこうしたテーマで作成した問題が出されたという。
 筆者は学生時代に塾講師や家庭教師のアルバイトをしていたものの四半世紀余りも前で、一素人の意見にはなるが「問題作成者が入試で受験生の学力や思考力を判断する上で、鉄道は題材の宝庫だからだ」と断言できる。しかも鉄道は国語と算数、社会、理科とあらゆる科目に結びつく。

 ▽時事問題にも絡めやすい
 例えば国連の持続可能な開発目標(SDGs)や、毎年開催されており2023年で28回目となった国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)に関してなど、環境問題は中学入試の理科で出題されがちなテーマだ。
 鉄道は二酸化炭素などの温室効果ガスの排出削減につながる環境に優しい乗り物だ。フランスでは鉄道を利用すれば2時間半以内で代替できる都市間の短距離航空路線の運航を原則禁じる法律が5月に施行されており、時事問題に絡めて鉄道が扱われる可能性もある。
 また、算数の問題ではこんな出題も考えられる。

 【問題1】長さ200メートルの電車が1・8キロのトンネルを通過するのに100秒かかりました。この電車は時速何キロでしょうか?

 最初の問題なのでヒントを出すと、電車がトンネルを通過するのはどのような状態を指すのかと、問題文に電車の長さも示している理由に着目して答えを導き出してほしい。
 さらに、ノーベル賞作家の川端康成の小説『雪国』の有名な書き出しの「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」に登場するトンネルについて、国語や社会の問題として出題することも可能だ。この問題例は後編でお伝えする。

東海道新幹線のN700系=2012年1月15日、神奈川県小田原市(筆者撮影)
鈴木貫太郎=撮影年月日不詳

 ▽東海道新幹線に沿って問われる地理の知識
 特に鉄道関連の出題頻度が高いのが社会だ。鉄道に関係する地理や歴史の知識をフル稼働させて解くことになり、全く鉄道に興味がない児童にとっては、ある意味不利とも言える問題だ。本稿では前編と後編にわたって、東京の私立中学校4校の社会科で出された問題例を取り上げる。
 攻玉社中学校は2018年入試の社会科で東海道新幹線に絡めて出題した。攻玉社は鈴木貫太郎元首相、川崎造船所(現在の川崎重工業)や神戸新聞社、九州電気軌道(現在の西日本鉄道)などの社長を歴任し、東京・上野の国立西洋美術館に多く所蔵されている美術作品群「松方コレクション」を収集した松方幸次郎を輩出している。

松方幸次郎=撮影時期は昭和初期

 【問題2】東海道新幹線が走る都府県を東京都から大阪府まで順番に並べると、次のようになります。空欄(ウ)と(オ)に当てはまる府県名を漢字で書きなさい。

東京都→神奈川県→(ア)→(イ)→(ウ)→(エ)→(オ)→大阪府

 【問題3】東京駅から東海道新幹線に乗車し、新大阪駅を目指したとき、次にあげた車窓の風景を順番に並べ替え、2番目と3番目にくるものをそれぞれ記号で答えなさい。

ア:熱海駅と三島駅の間にあるトンネルを通過した。
イ:ウナギの養殖で有名な湖を通過した。
ウ:茶の栽培がさかんな台地を通過した。
エ:五重塔や伝統的な寺社が多くある古都を通過した。

岸田文雄首相

 ▽インバウンド(訪日客)対応の「JY22」とは?
 東京の「男子御三家」と呼ばれる名門男子私立中学校の一つ、開成中学校は2018年入試の社会科でインバウンド(訪日客)拡大への対応に関する問題を出した。開成高校の卒業生には岸田文雄首相も名を連ねる。
 設問は下記の前文に続き、問題1、2が出題されている。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピック(筆者注:新型コロナウイルス感染拡大を受けて21年に延期)の開催に向けて、さらに多くの人が東京をおとずれることが予想されます。図は2016年8月から導入されている首都圏(けん)における駅名表示のイメージです。

JR東日本山手線の目黒駅のホーム駅名標表示イメージ(JR東日本のニュースリリースから)

 【問題4】この図のなかには日本語、英語、中国語以外の文字による表示が1つありますが、その文字を使用する言語は何語か答えなさい。

 【問題5】「目黒」の文字の横に「JY22」という表示が見られます。この表示のなかで「JY」が表しているものを具体的に答えなさい。

 ▽解答編:電車の速さ
 【問題1の解答】72キロ
 電車がトンネルを通過する状態とは、電車の先頭がトンネルに入った瞬間から最後尾が出る瞬間までを指す。トンネルの長さは1・8キロで、1キロ=1000メートルなので1800メートルとなり、電車の長さの200メートルを加えた計2000メートルを100秒で走ったと考えられる。
 よって、電車の秒速は2000メートルを100秒で割った20メートルだと分かる。分速ならば60倍の1200メートル、時速ならばさらに60倍の7万2000メートル、キロ換算では時速72キロとなる。

 ▽解答編:攻玉社中学校
 【問題2の解答】ウ:岐阜県、オ:京都府
 空欄を埋めると東京都→神奈川県→(ア:静岡県)→(イ:愛知県)→(ウ:岐阜県)→(エ:滋賀県)→(オ:京都府)→大阪府の順番となる。よってウが岐阜県、オが京都府だと分かる。

 【問題3の解答】2番目:ウ、3番目:イ
 アの「熱海駅と三島駅の間にあるトンネル」は静岡県東部の新丹那トンネル、イの「ウナギの養殖で有名な湖」は静岡県西部の浜名湖、ウの「茶の栽培がさかんな台地」は静岡県中部の牧之原台地(「牧ノ原台地」と表記することもある)、エの「五重塔や伝統的な寺社が多くある古都」は京都市となる。
 よって通過した順番はア→ウ→イ→エで、2番目がウ、3番目がイとなる。
 東海道新幹線に乗る機会があれば、車窓から見える景色を見ながら沿線地域について習った関連知識を思い出すだけでも入試対策になるかもしれない。機会がない場合、地図帳を広げながら鉄道の路線がある地域の地形や農産物、工業製品などを復習することをお薦めしたい。

JR東日本山手線の電車「E235系」=2018年8月30日、東京都港区(筆者撮影)

 ▽解答編:開成中学校
 開成中学校の最寄り駅はJR東日本山手線などが乗り入れる西日暮里駅だが、問題には目黒駅のプラットホーム駅名標の表示イメージを引用した。
 これはJR東日本が2016年8月4日に発表した「駅ナンバリング」導入開始のニュースリリースが目黒駅を例示していたためだ。

 【問題4の解答】韓国語
 JR東日本のニュースリリースは「日英中韓」の表記を導入すると説明しており、日本語、英語、中国語以外の言語は「韓国語」と答えるのが順当だ。
 他に「朝鮮語」と答えても正解だ。東京外国語大学のウェブサイト「朝鮮語を知る」は「朝鮮半島で使用されている言語は実は1種類であり、その言語を日本語では『朝鮮語』とも『韓国語』とも呼ぶのである」と明言している。
 一方、「ハングル語」または「ハングル」と記入すれば不正解になる。「ハングル」は韓国語、あるいは朝鮮語を表記するための表音文字(素性文字)であり、日本語ならば平仮名や片仮名のようなものに当たる。
 言語ではないので「ハングル語」という書き方は不適切だ。また、「ハングル」と答えても文字の種類を指すため、「何語か」という質問の答えにはならない。

 【問題5の解答】JR山手線
 駅ナンバリングはローマ字が路線名を指し、数字が0または1から始まる通し番号で駅を表している。「JY」が表すのは「JR山手線」と答えるので十分だが、東日本旅客鉄道の通称社名を冠した「JR東日本山手線」なども正解になるだろう。
 注意が必要なのは山手線の読みが「やまのてせん」でも、漢字表記は「山ノ手線」や「山の手線」ではないことだ。同じく表記が紛らわしいのは東京メトロの路線名が「丸ノ内線」なのに対し、東京駅がある東京都中央区の地名は「丸の内」と表記する。
 後編では小説『雪国』に登場する「国境の長いトンネル」の正体や、一見すると「どうして答えが分かるのか?」と疑問を持たれるような設問をご紹介する。

 《首都圏の中学校入試》主な日程は、1月上旬の埼玉県の学校を手始めにスタートする。千葉県では1月下旬から、東京都と神奈川県では2月1日から順次実施する。私立だけでなく、国立、公立中高一貫校も人気で、ここ数年は受験者数が5万人を超えている。試験は国語・算数・理科・社会の4教科、国語・算数の2教科での実施が主流だが、算数など1教科だけの入試を採用している学校もある。

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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