連載コラム【MLBマニアへの道】第14回:大谷が「勝てるチーム」として選んだドジャース 見据えるのはワールドシリーズ制覇

写真:入団記者会見で並ぶ大谷翔平とドジャース首脳陣

12月14日(日本時間15日)、大谷翔平がドジャース入団記者会見を行った。会見では愛犬の名前が「デコピン」であることを明かすなど様々な質問に答えた大谷だが、移籍先を選んだ際の優先順位を尋ねられ、「(後払いの割合が多い)契約形態からわかるように、勝つことが一番上にある」と明言するなど、勝利への渇望が大谷をドジャースへと導いたようだ。

勝利を最優先とした大谷がドジャースを選んだのは自然なことだ。ドジャースは2013年からの11年間、毎年ポストシーズンに進出し、地区優勝を逃したのは2021年の1度だけ。その年も106勝をあげており、首位ジャイアンツとはわずか1ゲーム差だった。

ぜいたく税などの戦力均衡制度が設けられているMLBでは、長期的に強いチームを維持し続けるのは容易ではない。資金力があればFAで大物選手を獲得し続けることはできるが、主力の高齢化やドラフト順位の低下などが積み重なり戦力はいずれ弱体化していく。ところがドジャースはそういった制約の中でも長期的に黄金時代を築き上げている。これは、常にファームシステムをハイレベルなものに保つスカウティング力や育成力によるところが大きいだろう。この組織としての強さこそがドジャースの最大の強みであり、大谷も強く惹かれたところだろう。

ところがそんなドジャースにも課題はある。直近11年間全てポストシーズンに進出したが、ワールドシリーズ制覇は短縮シーズンだった2020年の1度だけ。さらに緒戦の地区シリーズで敗れたのが5度と、短期決戦で思うような結果が出ていない。2023年シーズンでも、下馬評では優勢とされながらワイルドカードから上がってきたダイヤモンドバックスにスイープされ敗退したのは記憶に新しいところだ。

大谷の獲得に向けて昨オフから準備していたと言われるドジャースにとって、大谷はそんな状況を打開してくれるかもしれない強力なピースだ。MLBでの6年間でポストシーズン出場経験はないが、WBCでは投打に圧倒的な活躍でチームを優勝に導き、MVPにも輝いた。ドジャースが大谷に期待しているのは、そんな活躍をMLBのポストシーズンで見せてくれることだ。

米誌『スポーツ・イラストレイテッド』は大谷側がドジャースに対して「今回の後払い契約で浮いた資金を補強に充てるよう契約書に盛り込むことを求めた」と報道している。会見で「野球選手としてあとどれくらいできるのか誰もわからない」と語った大谷が求めているのは今すぐワールドシリーズ制覇すること。そしてそのビジョンをドジャース側も共有していると証明するかのように、今日の会見後、「ドジャースとレイズがトレードに合意し、ドジャースはタイラー・グラスノウとマニュエル・マーゴを獲得する」というニュースが駆け巡った。

このトレードは契約が残り1年のグラスノウの契約延長が前提になっており、条件が整い次第獲得が確定するはずだ。ドジャースは獲得する2人と同じポジションの若手ライアン・ペピオとジョニー・デルーカを対価として放出することになる。格安で長期間保有できる若手を放出し、今が全盛期のスター選手を獲得するのは、ドジャースが長期的に強いチームを作り上げていく上で大きなリスクになるだろう。特にグラスノウはこれまでの8年のキャリアで1度も規定投球回に到達したことのないガラスのエースだ。

しかし、ドジャースが目指すのは地区優勝ではなくワールドシリーズ制覇だ。短期決戦で勝つためには支配的なエースが必要。健康面での実績に乏しくとも投げればリーグ有数のパフォーマンスを見せるグラスノウの獲得は、ここからはリスクをいとわずに今勝ちに行くというドジャースの姿勢の表れだ。

『USAトゥデイ』のボブ・ナイチンゲール記者は、「グラスノウ獲得のトレードの後でもドジャースは山本由伸獲得の有力候補」と報じている。山本の契約は3億ドルに到達する可能性があるとされており、ドジャースは今オフ2人の日本人選手に総額10億ドルを投じることになるのかもしれない。それが実際に起こってもおかしくないほど、今のドジャースからはワールドシリーズへの渇望を感じるのだ。

文=Felix

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