【世界初】熊の“気配”で出没予測!カギは空気に漂う「クマのDNA」 人身被害“過去最多”更新 画期的な予測システムとは

全国で212人が被害に遭い、このうち6人が死亡。ことし過去最多を更新しているクマの人身被害。冬に入っても各地でクマの出没が相次いでいます。

そんな中、広島で画期的な研究が進んでいます。

専門家
「やはりこのクマが出る前に『クマが出るかもしれない』という情報を最終的には提供できるようなシステムに」

広島発!クマの出没を予測する新しいシステムについて紹介します。

中根夕希キャスター
「なんだかすごそうなシステムですね」

青山高治キャスター
「今年は特にクマの被害が多いだけに気になる方が多いと思います。ご紹介するのは広島発!『クマ出没予測システム』です。広島県がある西中国山地にはツキノワグマが生息しています。その野生のツキノワグマがいつどこに出没するのかあらかじめ予測して情報提供することで人身被害を未然に防ごう、というものなんです。平尾さん、すごいでしょう?」

コメンテーター(特定非営利活動法人ひろしまジン大学代表理事)平尾順平さん
「そうですね。予測する、つまり天気予報のようにいつ・どこに出てくることが分かるのは画期的だと思います」

青山キャスター
「まだ開発段階ですが、そういうことなんです。では、中根さん、これはクマの何で予測をすると思いますか?」

中根キャスター
「足跡とか、引っかき跡とかありそうですよね」

青山キャスター
「そういうのも含めて、ある意味、全部正解です。出没を予測するのに使うのは、クマのDNAなんです」

クマの出没予測システムを開発しているのは、広島大学大学院西堀正英教授のグループです。

動物の遺伝を専門に研究し、DNAを解析している西堀教授。ある「失敗」が開発のきっかけになったといいます。

広島大学大学院(応用動物遺伝学)西堀正英教授
「私たち一生懸命、いろんなDNA解析をしてるんですけれども、自分のDNAが混入してしまう。じゃ、それを逆手にとって、空気中にそんなに飛んでるんであれば、空気を集めて、その中からDNAを、特にツキノワグマのDNAを探してみようということで研究を始めました」

研究には、広島市の安佐動物公園が全面的に協力しています。ヒトのDNAの混入を出来るだけ避けるため休園日に実験をしています。

藤原大介 記者
「こちらが空気中のクマのDNAを回収する装置です。この筒の部分で空気を吸い込んで、ここのフィルターにクマのDNAを付着させます。今回は飼育されているツキノワグマに協力してもらいます」

3Dプリンターで本体を作り、市販のポンプやパイプを取り付けたという、西堀教授お手製の装置です。

3時間かけて1800リットルの空気をフィルターに通して、DNAを集めます。この日はデモ的な実験でしたが、実際はマスクを着け、極力しゃべらないようにして作業します。

西堀教授
「あそこにクラウドというクマ、それからあとメスのクマ2頭いますけども、3頭のクマからDNAが出てるわけですけども、クマ舎の中はもちろん、すごいたくさんのDNAがあって、距離が遠くなればなるほどその分子量が減っていくと、いうことがまずは、シミュレーションの実験で分かりました」

西堀教授の話はこうです。まず、ツキノワグマが飼育されているクマ舎の前でDNAを回収。そして75メートル、150メートル、300メートル離れた地点でもそれぞれ同じ条件で回収します。すると、クマ舎からの距離に応じて空気中のDNAの量が変化することが分かったといいます。

西堀教授
「今度は実際に山、あるいは森に行ったときに同じように空気を吸って、そのDNAの分子量を計測してやれば、おおよそ、ここにクマがいるということが推定できるだろうと。それをたくさんの所でやれば、そこにクマがいる、いないというマップが出来る。『クマ出没予測マップ』というのが将来できるんではないかと」

クマのDNAの量でどこにいるかを調べるのと並行して、クマを1頭ずつ識別することにも取り組んでいます。使うのは、フンです。

広島大学大学院1年 増田和志さん(22)
「個体の遺伝子型が載ってるので、このフンを残したクマがどういった個体なのかということが分かります、ここから。例えば安佐北区でとれたフンと、安佐南区でとれたフンが同じ個体のものであった、そういったときには、その個体の生息域、行動域っていうところまで明らかになります」

クマの出没予測システムには課題もあります。DNAはクマそのものだけではなく乾燥したフンや唾液などからも出てくるからです。

西堀教授
「つまり残していったものがあるから、それが原因となってツキノワグマがいたぞというふうに誤った評価になってしまいますね。ですから、それを何とか解決したい」

DNAよりも空気中に残る時間が短いRNA=リボ核酸を使って、クマがいた場所や時間をさらに絞り込みたいといいます。

西堀教授
「最終的には、やはりこのクマが出る前に、ここにはクマがいるぞ、あるいは、クマが出るかもしれないという情報を最終的には提供できるようなシステムにしたいなというふうに思ってます」

コメンテーター(特定非営利活動法人ひろしまジン大学代表理事)平尾順平さん
「まず、DNAやRNAがそんなに空気中に飛ぶものなんだと、そこから驚きです。これが日本で、クマだけを考えても、実際に稼働すれば、とても意味あるものになるでしょうし、イノシシやサル、他の動物においても、お互い遭遇しないことができれば、何とかなるところが出てくるかもしれない。すごく期待される技術ですよね」

中根夕希キャスター
「農作物への影響も大きいですし、人的被害も生じてしまっているので、それが未然に防げるのであれば、いろんな所で重宝されるシステムじゃないかなと思います」

青山キャスター
「システムとしては非常に分かりやすいと思うんですよね。空気中のDNAの量でどこにいるか判断する。これにプラスして、例えば監視カメラの映像と合わせれば、さらにデータとしても詳しくなっていくのでは」

青山キャスター
「実験が行われている安佐動物公園の西園でも10月に野生のツキノワグマが出没して閉鎖され、先週土曜日に見学再開となったばかりです」

青山キャスター
「西堀教授は「近い将来、クマの出没予測システムが実用化されたら『クマのDNAの分子量が基準よりも少なくなったから再開の判断となった』というふうに貢献できるようになりたい」と話しています」

中根キャスター
「明確な理由付けができそうですよね」

青山キャスター
「この世界初のクマ出没予測システム、ちょっと期待したいですね」

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