社説:与党税制大綱 不安増す「負担増」の先送り

 物価高に苦しむ日々の暮らしの助けにつながるのだろうか。

 2024年度の与党税制改正大綱が決定した。

 「物価上昇を上回る賃金上昇の実現」を最優先課題に掲げた。国民が「デフレ脱却のメリット」を実感できる環境をつくるとし、減税策を前面に打ち出した。

 一定水準以上の賃上げを実現した企業に法人税を減税する制度は、期限を3年延長し、中小企業の減税を最大45%に拡充する。赤字でも、将来の黒字を見込んで減税の権利を最大5年繰り越せるようにする。

 ただ、物価変動を加味した実質賃金は10月まで前年同月比19カ月連続のマイナスが続く。原材料高で余力のない中小企業には賃上げそのものが厳しく、黒字に転換できるとも限らない。

 国内生産の促進策として、半導体や電気自動車(EV)の生産、販売量に応じた法人税の減税措置も創設するという。

 だが、円安で高収益を得る大企業を、さらに優遇する面が否めない。すでに多岐にわたる政策減税(租税特別措置)の効果の検証、精査が欠かせまい。

 雇用の7割を占める中小企業の支援に重点化すべきではないか。

 1人当たり4万円の定額減税は、来年6月以降の実施となるため、即効性は乏しい。与党内から批判が出ても岸田文雄首相は固執したが、過去の例をみても負担軽減や経済波及への効果は極めて限られよう。

 焦点とされた期限は、1年限りで終わらない可能性に含みを持たせ、政局次第で、ばらまきを続ける余地を残した。

 政権肝いりの少子化対策に沿って、打ち出した子育て世帯への優遇策も心もとない。

 住宅ローン減税や生命保険料控除などをそろえたが、少子化の最大の要因は、雇用が安定せず、結婚や出産をためらうことにある。若者の非正規雇用対策が不可欠ではなかったか。

 何より見過ごせないのは、負担増に関する議論の先送りが目立ったことだ。

 高校生年代(16~18歳)の子どもがいる世帯の扶養控除縮小は具体案や時期を大綱に明記しながら、最終決定は来年の25年度大綱の議論で行うと併記し、あいまいさを残した。

 防衛力強化のための増税は、今回も開始時期の決定を来年に先送りした。

 首相に定額減税方針を打ち出され、政治資金パーティーを巡る裏金問題で逆風が吹く中、財政規律の重要性を口にしていた自民党税制調査会の宮沢洋一会長は「今年決めることは今の政治状況からしてなかなか難しい」と政治混迷の影響を認めた。

 政権維持に窮する岸田内閣の下、借金頼みで膨張させた財政の「平時化」は遠のくばかりだ。負担増の議論をごまかし、将来が見通せないままでは、国民の不安は募る一方である。
 

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