社説:化石燃料脱却 「抜け道」でなく実質削減を

 アラブ首長国連邦(UAE)で開かれていた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が「化石燃料からの脱却をこの10年で進める」とする成果文書を採択して閉幕した。

 石炭だけでなく、石油や天然ガスも含めた化石燃料全体を減らす合意は初となる。

 島しょ国や欧州連合(EU)が訴えた「段階的廃止」には至らず、踏み込み不足の感は否めない。文書には産油国などに配慮した「抜け道」の存在も指摘される。

 ただ、190以上の国・地域の利害が激しくぶつかり合う温暖化防止交渉では、成果文書が「妥協の産物」になることは避けられない。

 COP28では、世界各国の取り組みの進捗評価が初めて行われた。その結果、現状ではパリ協定の「気温上昇を1.5以内に収める」目標は到底実現できず、温室効果ガスを30年に19年比43%削減、35年に60%削減する必要があることなどを改めて確認した。

 これを踏まえれば、異論があっても化石燃料からの「脱却」を成果文書で共有することは不可欠だったといえよう。

 問われるのは、気候変動の危機が増大する中で、「抜け道」を許さず、文言通りに実のある「脱却」を担保する対策を各国が実施するかどうかだ。

 文書には排出削減策として二酸化炭素(CO2)を回収して地中に貯留する技術(CCS)の加速が入ったが、CO2を貯留できるなら化石燃料を使い続けてもいいと捉えられかねない。日本も国内で実証実験を続けるが、地震国に適地を見つけるのは容易ではない。

 2年前のCOP26で合意した石炭火力の「段階的廃止」についても、廃止時期を明記せず「努力の加速」にとどまった。

 岸田文雄首相は石炭とCO2を出さないアンモニアを混ぜて燃やす方針を打ち出した。アジアへの技術輸出ももくろむが、温暖化防止を口実にした石炭火力の延命策で「抜け道」とも批判された。

 成果文書には世界の再生可能エネルギーを30年までに3倍にすることも盛り込まれた。国際エネルギー機関(IEA)などは実現可能とみる。日本も「抜け道」を探すのではなく、これに沿って思い切ったエネルギー転換を進めるべきだ。

 一方で、疑問なのは成果文書に原発の活用が入り、日米など23カ国は世界の原発の発電能力を3倍に増やすとしたことだ。

 原発は持続可能な電源とはいえず、再生可能エネルギーの普及の阻害要因になりかねない。事故時のリスクが高く、廃棄物処理の問題も深刻だ。

 COP28では島しょ国が国土水没の危機を繰り返し訴えたが、いまや温暖化の被害は地球全体に及ぶ。先進国と途上国の対立を理由にした対策の遅れは、もう許されない。

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