川崎重工業、2030年に向けた水素事業の展望を解説

水素サプライチェーンにおける政府支援の進展

政府は2023年6月に「水素基本戦略」を改定した。その中で、値差支援、拠点整備支援(大規模サプライチェーン構築に向け、15年間で15兆円規模)を明記している。

LNG(液化天然ガス)においては、対石油で割高ながらも輸入が拡大している。税制優遇・補助金や総括原価方式を採用した政府支援により、1970年代から2020年にかけてLNG輸入価格が低下した。

水素サプライチェーンにおいても、LNGと同様に政府支援の大量導入がカギだとしている。

水素事業の見通し

同社は、短中期(2024年度~2026年度)の事業規模見通しを上方修正(2022年時点見通し対比)した。商用化実証の着実な進行(運搬船・基地)に加え、エネルギー関連製品の売上も増加しているという。

既存事業分野での活動が水素事業推進に貢献

はこぶ

大型液化ガス運搬船の建造に特化してきた、世界有数の造船所である同社坂出工場が水素社会実現のため、大型液化水素運搬船を供給していく。LNG運搬船については、1981年の建造以来、大型船~内航向け小型船までバラエティに富んだ船型を供給してきた。

今後、大型液化水素運搬船のラインナップ(小・中型船)を拡充していくという。

ためる

同社は、大型LNGタンクの納入により低温技術、生産技術の向上を図り、大型液化水素タンク開発に向けた極低温技術を確立していく方針を示している。

2010年以降の大型LNGタンク・液化水素貯蔵設備納入実績(施工中含む)は、大型LNGタンク24基(20年以降7基)、液化水素貯蔵設備20基(2020年以降9基)だという。この先、5万m3級(商用化実証PJ)の大型液化水素タンク開発から、更なる20万m3級(将来PJ)といった大型化による設備費低減を目指すとしている。

つかう

全世界で実績のある川崎重工製エネルギー製品が、エネルギーの水素転換・利用拡大の足掛かりになると想定する。

[水素混焼製品のラインナップ完了(水素Ready)]

  • 1MW級(専焼開発完了)
  • 5MW級
  • 8MW級
  • 20MW級 (専焼開発完了)
  • 30MW級

[2018年以降常用発電用タービン常用約100台の実績]

  • 水素専焼発電所1箇所
  • 水素混焼発電所 2箇所
  • 水素Ready発電所 5箇所

ガスタービン(GT)製造の実績を足がかりに、水素専焼GTのラインナップ拡充を図り、水素GE、圧縮機を投入していく方針だ。

液化水素サプライチェーン構築に向けた取り組みが加速

液化水素サプライチェーン構築に向け、2020年から2030年にかけて商用化に向けた実証を行う。事業スキームを強固にするほか、出荷・受入地を決定。そして主要な商用規模機器開発を完了させる。

2030年から2040年以降は、商用チェーン運用を開始する予定。商用化、需要創出に向けた仲間づくりを加速させ、レゾナックとの協業覚書締結、スタービン(混焼機)の受注の増加に取り組む。

水素サプライチェーンの事業スキームを強固に

2023年10月にINPEXが新たに資本参加することに合意した。今後も水素・エネルギー関連の高度な技術・知見を持つ企業が参画を検討しているという。

JSE Ocean

2023年1月に液化水素運搬船による液化水素の海上輸送事業検討を目的としてJSE Oceanを設立(JSE100%出資)した。そして、2023年9月には邦船3社(川崎汽船、商船三井、日本郵船)が資本参加。出資率は、JSEが50.2%、3社は各16.6%。

エネルギーの海上輸送事業において豊富な知見・経験を有する3社と共に商用規模の国際サプライチェーンにおける液化水素の海上輸送運用手法の確立を目指すとした。

液化水素サプライチェーンの出荷/受入基地が決定

同社の液化水素サプライチェーンにおける出荷地と受入基地は、以下のとおり決定している。

政府・自治体の動きも加速しており、2023年3月には日豪両政府立ち会いの下、日豪間での国際的な液化水素サプライチェーン構築進展を目的とした協力覚書を締結した。

同年6月、空港臨海エリアにおける水素利活用拡大を目的に東京都・大田区・川崎市が連携協定締結した。同年9月には、川崎市と川崎重工が連携協定を締結。川崎臨海部の水素需要の開発を通じた地域経済の持続的な発展を目的としている。

日本全体でも水素社会に向けて動きが加速

主要な商用規模機器開発が完了

2023年6月に大型液化水素運搬船用貨物タンクCC61H型の技術開発を完了した。(NEDO助成事業) これにより大型化の「技術課題」をクリアし、「タンクオペレーション技術」の検証・構築をすすめている。

大型液化水素運搬船は蒸発した水素を航行用燃料とするゼロエミッション燃料船となる計画

2024年春、国交省と川崎重工が主導し、液化水素の運送要件に関する国際規則を改訂し、IMO_MSC108(海上安全委員会)において採択予定だ。

水素基地用の大型液水タンクも技術開発から設計に移行し、2024年3月に基本設計完了予定という。 高圧ガス保安法の許認可プロセスを開始した。

大型化が可能なタンク形式を採用。川崎重工独自の構造、保冷システムを適用

液化水素サプライチェーン商用化に向けた仲間づくりが加速

水素ガスタービンの受注拡大

欧州および日本で水素ガスタービンの受注実績が拡大した。世界各地から数十件の水素発電引合いが来ているという。またChevron Phillips Chemical International N.V.(ベルギー)で既設改造による水素混焼運用が開始し、大手電力会社RWE社(ドイツ)と2026年に水素混焼・専焼発電の実証を開始予定だ。

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