「誰もがアーティスト」 芸術の可能性を感じ京都・亀岡へ、芸術祭企画を担当した男性の思い

「なくても生きていけるものが、生きる力になる」と芸術や本の魅力を語る奥岡さん(亀岡市荒塚町)

 来場者が木片を組み合わせて架空の街をつくったり、余った画材を次の使い手のために持ち寄ったり。展示作品を見る側になるだけでなく、作り手にも支え手にもなれるように地元ゆかりの芸術家たちと展示内容を練り上げた。かめおか霧の芸術祭で企画を担当する奥岡莞司(おくおか・かんじ)さん(31)=京都府南丹市八木町=は「誰もがアーティストである、アートに関われると感じてもらえたならうれしい」と語る。

 10月14~25日に丹波亀山城跡(亀岡市荒塚町)で開かれた「城跡芸術展」で作品展示の企画を担った。「暮らしを耕す」とうたう「かめおか霧の芸術祭」の一環らしく、日々の生活を豊かにするという理念がにじむ内容に仕上がった。

 こだわりの本と菓子を販売するオンラインショップを営む一方、昨年から年間を通してさまざまに展開する霧の芸術祭のメンバーに加わった。企画テーマは芸術にとどまらず、本や食、土といった「人をつなぐことができる装置」に広がる。

 人をつなぐことに関心を寄せる。その出発点は畑違いの研究だった。三重県出身で、京都大工学部に入って土砂災害のリスクを研究。東日本大震災のような巨大災害に物理学で備えきるのは困難だと思い至った。「人とのつながりが災害時に生死を分ける」。つながりを育むコミュニティーに関心が移った。

 食を軸に人が集える場所をつくりたいと、大学院修了後にホテル運営会社に就職し、沖縄でもてなしや空間づくりを学んだ。その後、知人のまちづくり会社に誘われて岐阜に移住。復活させた老舗喫茶店の店長として展覧会を企画するうちに芸術の可能性を感じる。学生時代の先輩から声をかけてもらい芸術祭に参加するため、亀岡にやってきた。

 目指すコミュニティーは「ここに居ていい」という感覚をもってもらえる場所だ。芸術祭で取り組む「KIRI FARM」では、教える側と教えられる側に分かれず、それぞれができる作業を考えて畑を耕す。読書会では、参加者はその場で渡された本の同じ箇所を読み、感想を述べ合う。

 「土の上では優劣はつきにくい。読書会は事前に読み込む必要はなく、読むスピードが遅くても参加できる。そうした、多くの人が共有できる体験を大切にしたい」。これからも、それらを通じて確かなつながりを耕していくつもりだ。

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