社説:防衛力強化の行方 国民に見えず、理解もなく

 国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定を岸田文雄政権が閣議決定し、1年がたった。

 他国への反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や防衛予算の「倍増」、宇宙の防衛利用や研究開発の軍民一体化など、戦後の安保政策を大転換した。

 だが、性急な軍備強化の一方、どういう防衛力を備え、機能させるのかの中身と財源の裏付けは見えないままだ。国民の理解と支持を欠いた政府の独走に、危うさを禁じ得ない。

 2023~27年度に総額43兆円に上る防衛費を賄うため、必要と打ち出した増税は、24年度の与党税制改正大綱で明記せず、先送りにした。安定した財源を確保しないまま、装備増強ばかり進めるのは無責任の極みというほかない。

 このままでは、なし崩しに国債(借金)で賄うことになるのではないか。首相は「未来の世代への責任として(国債発行は)とり得ない」と言明していたはずである。

 軍事に偏り、国力に見合わない「倍増」策の帰結ともいえる。改めて安保戦略の見直しを求めたい。

 先の国会では新たな問題も浮上した。木原稔防衛相はイージス・システム搭載艦の経費が、昨年12月の見通しから約2千億円増の約6千億円に上ると明かした。米国から40機購入するステルス戦闘機を1機当たり100億円と見積もっていたが、134億円に上がっている。

 昨年の改定時は1ドル=108円で換算していたが、今や140円を超える円安で推移する為替相場がコストに跳ね返る。資材や人件費の高騰も、防衛調達の単価を押し上げている。

 首相は「閣議決定した数字の範囲内で強化する方針は変わらない」としたが、では何を見直すのかを語らなかった。

 防衛装備の単価について財務省の審議会では、製造原価が上昇するほど防衛産業側の利益が増える仕組みのため、自発的に価格を低減する動機付けが乏しくなるとの指摘も出ている。調達コストの透明化を求める意見は、的を射ていよう。

 だが、政府は防衛上の秘匿性を理由に、密室で整備する姿勢を強めるばかりだ。

 米政府は先月、日本への米国製巡航ミサイル「トマホーク」の売却を承認した。最大400発で、関連装備を含め総額約3500億円になる見込みとする。日本は反撃能力としての活用を目指し、26年度としていた導入を前倒した形だ。

 さらに、そのミサイル配備を含め弾薬庫を各地で整備する計画も進めている。京都府内にも、かつて東洋一の火薬庫といわれた祝園弾薬支処(京都府精華町)がある。有事の際には攻撃対象となる施設だけに、懸念が拭えない。

 可能な限りの情報を明らかにし、国会での議論を尽くすことが欠かせない。

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