御来光が見たい! 長崎空港で富士山遊覧ツアー 笑顔あふれたフライト、24時間化へ手応え

機内から遠くに富士山を望む。手前は機体の翼

 運用時間に制限のある長崎空港(長崎県大村市箕島町)で、異例の早朝チャーター便による富士山遊覧ツアーが10日、日本航空、阪急交通社、長崎空港ビルディングなどの協力で実現した。空港24時間化に向けた実証実験の側面もある2時間半のフライトに記者が搭乗。空港利用の可能性を取材した。
 10日午前4時過ぎ。暗く静かな大村湾に架かる箕島大橋を渡り、長崎空港に着いた。空港の運用は午前7時~午後10時。通常は立ち入ることはない時間帯だ。
 「お客さまに富士山と日の出を同時に楽しんでいただきたい」。日航長崎支店の寺尾康支店長は企画目的を語る。チャーター便の離陸時刻は午前5時20分。日航の長崎発便としてはこれまでで最も早い。搭乗口の電光掲示板には「富士山遊覧チャーター」の文字。エンブラエル190型機はツアー客約70人を乗せ、飛び立った。
 乗客のお目当ては上空から見る富士山と「御来光」のコラボレーション。午前6時を過ぎると、機体右側に広がる太平洋の水平線がオレンジ色に染まり始めた。カメラを構える右列の乗客に対し、窓の外に夜景が広がる左列の乗客は落ち着かない様子。天候は良いのか、日の出に間に合うのか。期待と、わずかな不安が入り交じる。
 機内アナウンスが中部地方上空で旋回することを告げた午前6時半。窓をのぞき込んだ乗客から「おーっ」と歓声が上がった。雪をかぶった険しい日本アルプスの向こうに、日本一の頂が見えてきた。
 ついに富士山頂から太陽が顔を出した。朝焼けの真っ赤な空に堂々とした山嶺(さんれい)のシルエット。思わず拝みたくなるような神々しさだ。朱色の陽光が機内に差し込み、乗客の笑顔を照らし出した。機体は何度か旋回し、左右両列の乗客とも御来光を楽しんだ。
 島原市有明町の50代男性乗客は、富士登山を試みたが登頂を断念したという。上空からの御来光に「感動以外に言葉がない」と絶景をかみしめた。1時間後、気付けば機体は九州へ。眼下には霧が立ち込める多良山系が広がった。「あー、終わっちゃう」。どこかからつぶやきが聞こえた。
 寺尾支店長は「大変喜んでもらえた」。ツアーを継続するかは未定だが、手応えを感じたという。「需要があることは分かった。時間外に飛ばなければ、この景色は見られない」
 空港に着陸したのは午前8時。いつもなら朝食を取っている時間帯なのに、既に富士旅行を終えて大村に帰ってきたことが不思議に思えた。次の取材まではまだ十分に時間がある。朝日に輝く大村湾を、しばらくじっと眺めていた。
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 県は長崎空港の24時間化を推進している。大村市の園田裕史市長は1日、定例市議会で「アジアのハブ(拠点)空港として県のビジネス・観光の拡大などに寄与するためにも、24時間化を促進する」と所信表明した。

「5:20 富士山遊覧チャーター」と表示された搭乗口=10日午前4時46分、長崎空港
大村を離陸し約1時間。富士山の御来光を機内から望む=10日午前6時36分撮影

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