社説:診療報酬改定 人の確保と処遇の改善こそ

 医療・福祉サービスの安心を支える環境改善にこそつなげねばならない。

 政府は、医療機関に支払われる診療報酬の2024年度改定で、医師や看護師らの人件費などに回る「本体」部分を0.88%引き上げる方針とした。2年に1度の改定で、前回22年度の0.43%増を大きく上回る。

 24年度は、3年に1度の介護報酬、障害者福祉サービス報酬と重なるトリプル改定となる。いずれも人件費のプラスを織り込んだ。医療・福祉分野でも、岸田文雄首相が重視する「賃上げ」を後押しする狙いといえよう。

 診療報酬の改定を巡っては、医療従事者の賃上げ原資にと、日本医師会(日医)や厚生労働省が1%台半ばの大幅プラスを求めた。対して財務省は、新型コロナウイルス対策などで開業医らの診療所が過剰な利益を得たデータを示し、抑制を主張。協議は難航した。

 最終的に、本体で1%近い増加を認める一方、薬の値段に関わる「薬価」を市場取引価格に近づける0.96%減とし、全体ではわずかなマイナス改定とする折衷策で決着した。

 本体増のうち賃上げ対応分は0.61%とされる。過重労働が深刻で、24年度からの残業規制強化への対応が急務の勤務医をはじめ、現場の看護師、検査技師らの処遇改善に確実に回る実効性が問われよう。

 同時改定の介護報酬は1.59%増、障害者福祉サービス報酬も1.12%増と、ともに前回改定より増加幅を広げた。介護職の平均月収は全産業平均より約7万円低い。慢性的な人手不足と、それに伴う事業所閉鎖などに歯止めをかける必要がある。

 医療・介護費用は保険料と自己(窓口)負担、税金などで賄われる。報酬が1%増えると医療で約4800億円、介護で約1380億円の負担増になる。

 首相は、肝いりの「次元の異なる少子化対策」の財源捻出のため「支援金」徴収を検討している。保険料に上乗せするが、社会保険分野の歳出改革などで「実質負担ゼロ」にすると説明してきた。

 だが、今回の報酬改定で歳出抑制の困難さが浮き彫りになった上、さらに高齢化の進展による費用の「自然増」ものしかかる。内閣府の試算によると、50年時点の人口1人当たり医療費は19年に比べ22%増、介護費は75%増が見込まれる。

 保険料軽減が見通せない中、段階的な利用者負担増と給付削減が検討課題となっている。必要な医療・介護が抑制されれば、超高齢社会を揺るがせる。慎重な議論が欠かせない。

 自民党の有力支持団体である日医と族議員、官邸などの政治的駆け引きで決めるのは限界に来ているのではないか。持続可能な負担と給付の在り方に向けた不断の見直しを求めたい。

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