社説:学術会議法人化 政府介入の疑念消えず

 学問の自由と独立を損ないかねない。再考すべきだ。

 政府は、組織の見直しを検討している日本学術会議について、国の特別機関である現状を改め、切り離して法人化する方針を示した。

 科学的な根拠に基づいて政府に助言・勧告を行う役割は変わらないとするが、会員選考と運営、活動評価に外部の有識者による委員会が関与する仕組みを導入する。一部のメンバーは担当大臣が任命するとしている。

 現在は国費で運営している財政基盤は「多様化に努める」と含みを持たせた上で、政府は必要な支援を行うという。

 独立させるとしながら、政府が運営や人事に介入できる枠組みとする狙いは明らかである。財政も不安定になりかねない。

 学術会議は「デメリットの検討をしない結論ありきの内容」と反発している。

 政府介入への疑念が拭えないのは、2020年に菅義偉前首相が会員候補のうち6人の任命を拒んだ問題が根底にある。「形式的な任命」との従来説明に反するが、拒否理由を説明しないまま、論点をずらして組織見直しに動いた。

 学術会議は今も任命拒否の撤回を求めているが、岸田文雄首相は「手続きは終了した」として向き合っていない。

 そうした状況で政府は今年の通常国会で、一方的に学術会議法の改正案を提出しようとした。会員選考に外部の委員会を関与させる内容だったが、学術会議が独立性を損ねるとして13年ぶりとなる「勧告」で提出の中止を求めた。

 政府は法案提出を見送り、8月に有識者懇談会を設けた。だが、議論は非公開で進み、法人化の方向性を示した。

 座長は「国の機関のままでなければならない理由について納得できるものが示してもらえず残念」と学術会議を批判したが、中立性を損なう懸念について議論が尽くされたとはいえない。

 先の臨時国会で成立した改正国立大学法人法では、文部科学相がメンバーを承認する会議の設置を義務付け、予算や中期計画を決定し、学長選考に意見ができる制度を設けた。運営や人事に政府が介入する考え方は通底している。

 政府は年内にも法人化に向け法案作成に着手するというが、今のままでは禍根を残すのは避けられない。科学の成果を社会や施策に生かすため、政府は胸襟を開いて学術会議と話し合う必要がある。

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