電子ピアノでピアノを始めるのはいかが?魅力や選び方【榎政則の音楽のドアをノックしよう♪】

クリスマス・新年と、少しお金を出して新しいことを始める機運が高まる季節となりました。

ところで、ピアノ教育界の論争テーマとして、「電子ピアノでの練習はアリか?」というものがあります。

「せめてアップライトピアノから始めなさい」という意見から「プロを目指すなら始めからグランドピアノで練習するべき」という意見まで。

もちろん、「電子ピアノでも十分上達可能」という意見もあります。どれも一理あるのですが、今回は少し電子ピアノに肩入れをして、電子ピアノがいかに魅力的な楽器で、ピアノ上達に有効かということを語ってみましょう。また、電子ピアノの選び方についても少し触れたいと思います。

電子ピアノの仕組み

電子ピアノの仕組みは簡単に言ってしまえば「たくさんのボタンが付いたコントローラー」です。ここでいうボタンは鍵盤のことで、これを押すと音が鳴ります。しかし、ただのボタンとは少し違います。電子ピアノの鍵盤には、押す強さを検知するセンサーがついています。一般的には0(無音)から127までの128段階の強さの検知が可能です。

人間がピアノの鍵盤を押す力を128段階でコントロールすることは現実的に不可能ですから、十分な細かさと言えるでしょう。

⇒ベートーヴェンが「自由」を求め、表現した「交響曲第九番」

どの鍵盤をどの強さで押したかを、電子ピアノが読み取れば、あとは実際のピアノで同じように弾いたときの録音を鳴らします。このようにして、実際のピアノと同じような音を鳴らすことが可能になるのです。

実際のピアノは、2音以上鳴らすと弦同士が共鳴してより複雑な音になったり、音を止めるときのフェルトが弦と擦れる音が鳴ったりと、鍵盤以外の要素の音もあり、これが音色の違いの大きな要素となります。

最近の電子ピアノはこのような共鳴や雑音も再現できるようになってきており、各電子ピアノメーカーの技術力の向上は留まるところを知りません。

電子鍵盤の種類

電子ピアノを探そうとすると、大量の種類があることがわかるでしょう。中にはたくさんのボタンが付いたいかつい見た目のモデルもあります。同じ鍵盤がついていても、電子ピアノの他に、電子オルガン・MIDIキーボード・シンセサイザーなど様々な商品があるので注意が必要です。また、一つのモデルに複数の機能を搭載している場合もあります。

電子ピアノ

ピアノを模倣した電子楽器で、なるべくピアノに近い鍵盤のタッチで、豊かな表現力を再現することを目的にしています。音色の変更や、DTM(デスクトップミュージック・パソコン上で制作する音楽のこと)にも対応しているモデルがほとんどです。

電子オルガン

最も有名なのはYAMAHAのエレクトーンで、2段鍵盤、足鍵盤付のものがあります。タッチはピアノの鍵盤とは違い、軽めに調整されていることが多いです。音量に劇的な変化があるクラシック音楽にはあまり向いていませんが、音色に変化を付けたり、一人でオーケストラのような豪華なことをするのに適しています。パフォーマンス力は抜群ですが、ピアノとは別の楽器と考えたほうが良いでしょう。

MIDIキーボード

MIDIキーボードはDTM専用の道具です。MIDIとは、コンピューター上で音楽を通信するための規格のことです。MIDIキーボードを通してコンピューターに演奏の情報を送ることで、よりライブ感のある音楽を作ったり、制作速度の向上がはかれます。 本体からは音が出ないため、これだけでは演奏できないことに注意が必要です。

シンセサイザー

音色そのものを作るのがシンセサイザーの役割です。電子ピアノ・電子オルガン・MIDIキーボードは全て「鍵盤を弾くことで、録音された音を鳴らす」のが目的ですので、コントローラーの一種と言えます。しかし、シンセサイザーは音そのものを楽器の内部で作るため、真の意味で電子楽器と言えます。自由度が高く、様々な効果を創り出すことができますが、電子音楽の知識が必要になりますので、これもピアノとは別物と考えた方がよいでしょう。

ピアノの練習のために電子ピアノを導入する場合は、間違いなく電子ピアノを選ぶようにしてください。また、その他の楽器も奥深い世界が広がっていますので、もし興味があったらぜひ覗いてみてください。

電子ピアノにはどれほどの表現力がある?

電子ピアノと一言に言っても、1万円の電子ピアノと100万円の電子ピアノでは全く表現力が違います。ここでは、4~10万円程度のミドルクラスの一般的なメーカーの電子ピアノを想定して考えてみることにします。

最も表現力に問題があるのは、極めて小さな音の時と、極めて大きな音の時です。電子ピアノは128段階の音量ということは前にも述べましたが、0(無音)と1の間の音や、127を超える大きな音は原理的に出すことができません。ppp(ピアニッシッシモ・極めて弱く)や、fff(フォルティッシッシモ・極めて強く)という表現をしようとすると、全ての音が1や127になってしまい、表現力がとぼしくなってしまうことがあります。

しかし、これらの表現を使う曲というのはごく一部の激情的な曲であり、実際は30~60が弱音、60~90が通常の音、90~120が強い音、という印象で、強弱による表現の差を感じることはほとんどありません。

また、表現は音の大きさだけではありません。和音を弾くときに、完全に同時に弾くか、すこしばらすか、ということだったり、正確なリズムより少し前のめりに弾くか、少しもたついて弾くか、といった細かい部分に表現が宿ります。このような表現は電子ピアノと実際のピアノにほとんど差がありません。また、こういったわずかなズレがピアノの音色を作っていきます。

同じ電子ピアノで同じ設定にして演奏しても、上手な人と初心者では、楽器が違うのか、と思うほど音色に差が出てきます。それだけ電子ピアノは表現力が豊かな楽器です。

電子ピアノでの練習

これほど表現力が豊かな電子ピアノですが、なぜ練習に用いてはいけないという論が根強いのでしょうか?

それは主に二つの理由からなると筆者は思っています。 ・タッチが実際のピアノと異なるから ・鍵盤に伝えた力が弦を震わせる感覚を得られないから

それぞれ見ていきましょう。

タッチが実際のピアノと異なるから

これは20年前ならかなり大きな問題でした。実際に20年前の電子ピアノのイメージで止まってしまっている人も多いかもしれません。

しかし、「ハンマーアクション」を採用している電子ピアノは驚くほど実際のピアノのタッチに似ています。また、タッチをピアノに似せようとすると、てこの原理から本体の奥行きが巨大化する傾向にありましたが、最近の電子ピアノはコンパクトながら素晴らしいタッチを再現しているモデルも多いです。

⇒「ブギウギ」ってどういう意味?

練習用の電子ピアノとしては、「ハンマーアクション」を採用しているものを選ぶと良いでしょう。特に鍵盤の奥のほうでも弾くことができればなお良しです。

余談になりますが、ピアノは「本番では自分の楽器を弾くことができない」という、他の楽器にはあまりないユニークな特徴があります。実際にプロのピアニストを目指すのであれば、どんなピアノに対しても、それぞれ最適なタッチを見つけ、弾き分ける必要があります。

タッチの問題は、グランドピアノとアップライトピアノでも深刻な問題です。グランドピアノのほうが機構全体に重力がかかりやすく、力をよりストレートに、機敏に伝えることができますが、アップライトピアノはハンマーが水平に動くため、反動を感じる必要があります。

しかし真に優れたピアニストであれば、アップライトピアノでも電子ピアノでも、最適なタッチを見つけ、弾き分けることができるはずです。

最も大切なことは「どのような弾き方をすれば、どのような音色が出るのか」ということを瞬時に判断してそれを演奏に活かせることです。これはグランドピアノでも電子ピアノでも変わらないと思っています。

鍵盤に伝えた力が弦を震わせる感覚を得られないから

これは反論の余地なく、電子ピアノの弱点です。実際にピアノを弾いていると、弦の振動はピアノ全体を震わせ、それが指先まで伝わります。

ピアニストは全身で弦の振動を感じながら、耳で細かい残響まで聞き取り、微調整して演奏しています。

しかしこれは何年何十年と練習と経験を積み重ねてきて初めて到達できるレベルであり、ピアノを始めるときにいきなりここから考えなくてもよいでしょう。

電子ピアノで、姿勢や指使いといった基本的なことから、強弱の付け方、リズム感といった表現力まで多くのことが練習可能です。

もしプロ・ピアニストを目指して練習するという場合であっても、「電子ピアノは弾かないピアニスト」ではなく、「電子ピアノも弾きこなすピアニスト」を目指してみてはいかがでしょうか。

練習用の電子ピアノの選び方

それでは話題を変えて、実際に練習用の電子ピアノを選ぶ方法をご紹介します。

「電子ピアノ」を選ぶ

MIDIキーボードやシンセサイザーは電子ピアノではありません。機能ができるだけスッキリとしている「電子ピアノ」を選びましょう。

「ハンマーアクション」を選ぶ

鍵盤の戻りに(ばねではなく)重力を感じられるものを選ぶのがポイントです。初心者のうちは少し重いと感じるかもしれませんが、すぐに慣れるので安心してください。

同時発音数は128以上のものを選ぶ

同時発音数が足りないと、ペダルを使った音楽などではすぐに音が抜けていってしまいます。

スタンドはできるかぎりしっかりしたものを選ぶ

鍵盤の高さを変えられるものもありますが、基本的には椅子の高さで調節するので、高さの変更できない固定式のしっかりしたものがおすすめです。

機能にこだわりすぎない

音色の数や録音機能、収録曲など様々な機能が電子ピアノにはついていますが、使いこなすのは大変ですし、実際はあまり使わない場合がほとんどです。機能はできるかぎりシンプルなほうが、練習に集中することができます。 欲しい機能がある場合、それだけに注目し、追加の機能で迷わないことが大切です。

デザインは好きなものを選ぶ

最終的に楽器を続けられるかどうかは、その楽器を好きになれるかどうかです。使わない機能に1万円の追加をするくらいなら、好きなデザインに1万円の追加をしたほうがよっぽど上達に効果的です。このピアノかっこいい!この楽器が家にあったらわくわくする!といった感覚を大切にして下さい。

ぜひお気に入りの電子ピアノでピアノ生活をスタートしてみて下さい。(作曲家、即興演奏家・榎政則)

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 榎政則(えのき・まさのり) 作曲家、即興演奏家。麻布高校を卒業後、東京藝大作曲科を経てフランスに留学。パリ国立高等音楽院音楽書法科修士課程を卒業後、鍵盤即興科修士課程を首席で卒業。2016年よりパリの主要文化施設であるシネマテーク・フランセーズなどで無声映画の伴奏員を務める。現在は日本でフォニム・ミュージックのピアノ講座の講師を務めるほか、作曲家・即興演奏家として幅広く活動。

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