縄文の始まり解明なるか 長者久保遺跡(青森・東北町)、2024年度から本格発掘へ

長者久保遺跡出土の石器について、実測調査を行う根岸准教授=11月24日、野辺地町立歴史民俗資料館
長者久保遺跡から出土し、野辺地町立歴史民俗資料館で展示している石器

 東京大学の研究チームが本年度から、青森県東北町北西部にある縄文時代草創期の「長者久保遺跡」を中心とした調査を行っている。同遺跡で出土した石器群は、長野県の神子柴(みこしば)遺跡から出土した国重要文化財の石器群とともに「神子柴・長者久保石器群」と呼ばれ、旧石器時代から縄文時代への移り変わりを知る上で重要視されている。現在は試掘調査や出土石器の記録・情報化を進めており、2024年度からは本格的な発掘調査に着手予定。縄文時代の始まりに関する新たな発見に期待が寄せられている。

 調査は、県教育委員会文化財保護課などを経て現在東京大学大学院人文社会系研究科の根岸洋准教授を代表とする研究プロジェクトが進めている。

 1997年の県立郷土館による同遺跡の発掘調査では、石器の見つかった層が分厚い火山噴出物に覆われていることが分かっている。今回の調査では、これが約1万5500年前とされる十和田八戸火山噴火に由来するものかどうかを調べる。

 また周囲は低湿地であることから、花粉や植物片などが残っている可能性があり、当時の環境に関する研究の進展も期待される。根岸准教授は「縄文時代の始まりの頃の研究材料は、長者久保と(外ケ浜町の)大平山元遺跡がある青森県が全国でも突出している」と説明する。

 長者久保遺跡では59年、地元の中学生が石器を発見。野辺地町の考古学愛好家、角鹿(つのか)扇三さん(1888~1980年)らが完形の石器群を採集した。これまでに局部磨製石斧(せきふ)、打製石斧、石槍など51点の石器が出土し、いずれも同町立歴史民俗資料館が所蔵している。このうち28点は県重宝。

 今年11月24~27日には、根岸准教授と同大大学院人文社会系研究科次世代人文学開発センターの夏木大吾特任助教が同資料館を訪れ、3次元計測技術による石器の実測調査を行った。同遺跡の石器は主要な種類がそろっており、しかも完全な状態で出土している点で珍しい一方で、論文などではこれまで一部しか報告されていないという。

 2人は石器に関し、作り方や時代・文化的な特徴などを読み解く研究に取り組んでいる。同遺跡の発掘では今後、食料を煮炊きするようになった縄文時代草創期の環境や、生活スタイルや社会の変化などを探っていくという。夏木特任助教は「縄文時代の草創期に寒冷だったと言われる中で、定住する社会に変化していくには何らかの要因があるはず」と興味を寄せている。

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