年末年始は“ごちそうシーズン”でも妊婦は少し注意が必要⁉ みんな大好き「マグロ」や「キンメダイ」実は摂取量に制限が…

新型コロナウイルスが5類に移行したことで、2023年の年末から年始にかけて、忘年会や新年会、旅行などでおいしいものを楽しむ機会が増えそうです。

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円安や国際情勢の影響で物価は上昇傾向ですが、企業の業績は好調で、博報堂生活総研の調査によると日本人の消費意欲は「年末年始に向けて、食を中心に幅広いカテゴリーで意欲高まる」と報告。また、11月に比べて、その伸びは「最近5年間では2021年に次ぐ2番目に高い指数」となっているそうです。

年末年始のごちそうの代表格といえば魚介類。特に高価格なマグロなどは人気が高い食材です。また、名前に「金」が入っていることから縁起物として需要が高いのが「金目鯛」。醤油につけるとサッと脂が広がるマグロ、甘辛く煮付けられたふわふわの白身の金目鯛は、特別な席に欠かせない逸品です。しかし、いくらおいしくても、食べ過ぎには注意が必要だというのです。

マグロや金目鯛の身には…

マグロや金目鯛といった魚は、身に含まれる水銀が他の魚介類より多いため、国は摂取量を制限するように呼びかけています。

1973年(昭和48)年に初めて、当時の厚生省環境衛生局が「暫定的規制値」を定め通達し、以降数回にわたり各自治体への指導が行われています。では、どうして一部の魚介類には多くの水銀が含まれているのでしょうか。

“水銀”は大型の肉食魚に蓄積⁉

魚介類に含まれるのは「メチル水銀」で、自然界の特殊な細菌により作られます。細菌が作ったメチル水銀はプランクトンに取り込まれ、それを小魚が摂取します。食物連鎖の上位に位置する金目鯛やマグロなどの大型肉食魚が小魚を食べることで大型肉食魚の体内に水銀が凝縮されるのです。

国立水俣病総合研究センターの調査では、アジの水銀濃度が0.03ppmなのに対し、カツオは0.17ppm、マグロに至っては0.97ppmとなっています。

“バリアー”をすり抜け…

同研究センターがまとめた冊子「水銀と健康(第4版)」は「(人間の体に)吸収されたメチル水銀は血管を通っていろいろな臓器に分布します。血液ー脳関門や胎盤は、有害物質の脳や胎児への侵入を防ぐバリアーの役割をしていますが、メチル水銀は(必須アミノ酸の姿を装って)容易にこのバリアーを通過します」と説明。国の指導でも「妊娠されている方およびその可能性がある方」がリスク対象だとしています。

2005年、厚労省は摂取量の目安を発表しました。クロマグロ、メバチマグロ、金目鯛などは「1回約80㌘として妊婦は週に1回まで」、クロムツ、ミナミマグロ、ユメカサゴなどは「1回約80㌘として妊婦は週に2回まで」としてます。

さらに国内では少なくなりましたが、イルカやクジラを食べる習慣がある地域では、これらにも注意が必要です。食物連鎖の頂点を占めるイルカやクジラなどの大型哺乳類は蓄積する水銀量も格段に多く「1回80㌘として妊婦は2か月に1回まで」となっています。

一方でマグロのなかでもキハダ、ビンナガ、メジ、ツナ缶は「通常の摂取で差し支えない」ということ。ちなみに刺し身や切り身の一般的な一人前の量が80㌘で、寿司や刺し身は一切れはおよそ15㌘で計算するそうです。

多量に食べるリスクを知ろう

国の発表を受け、日本産科婦人科学会からも通達がありましたが、現状では「注意喚起するように」といったような学会のガイドラインは出されていません。国立大学法人浜松医科大学臨床教授で「俵IVFクリニック」(静岡市駿河区)の俵史子院長は患者への食事指導でも、魚介類に含まれる水銀に特化した話はしていないと説明します。

「魚には良質な栄養素が含まれています。理論的にはありうる話でも、極端な情報提供は返って不安をあおり逆効果です」と対応方針を語り、妊活、妊娠中の女性にはそれよりも重要な食への注意があると語ります。

「同じ食材、料理を続けて大量に食べないことです。例えば魚介類を生食ばかりすると水銀の蓄積以外にも食中毒のリスクが高まります。またレバーを多く食べるとビタミンAの摂取が多くなり胎児に悪影響を与えます。こうしたリスクを回避するために、摂取する栄養の幅を広げることが大事です」(俵院長)

魚の栄養メリットを優先…それでも

厚労省も魚介類から摂取できる栄養メリットを第一に掲げ、妊婦への注意喚起も「万が一」を考えた予防的な観点から行われています。しかし、当時の厚生省が暫定的規制値を定め通達を出した1973年はマグロは「高級魚」として食べる機会が少なかった時代でしたが、もはや、マグロは高級魚ではなく、以前より口に入れる機会が増えています。

消費者団体からは、規制値が現状に合っているのか疑問視する声も出ています。国立水俣病総合研究センターによると、メチル水銀の影響について、ニュージーランドやセイシェル、マディラ諸島、フェロー諸島で調査が続けられているそうですが、「別の調査地域からは全く影響がないという報告もあり、影響の有無についてはいまだにはっきりとした結論は出ていない」とのこと。信頼に足る調査結果が出るまでは、リスク対象者の妊婦さんたちは、おいしいからといって「つい食べ過ぎ」は控えたほうがよいようです。

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