タダ働きは「見切り時」 トラック運転手の慣行見直し 物流24年問題「大きなチャンス」

「運転手と配車のコミュニケーションが、商慣行是正の小さな一歩」と話す三俣良輔さん(右)と待元久弥さん=西脇市平野町(撮影・長嶺麻子)

 午前8時過ぎ、兵庫県神河町の物流倉庫に、全長12メートルの大型トラックが到着した。ドライバーの三俣良輔さん(51)がスイッチを押すと、ウイング(荷室の側壁)がはね上がる。

 前日に富山県で積み込んだ荷物は、約10トン分のペットボトル飲料だ。四角く組んだ箱を載せた「パレット」台を、フォークリフトが持ち上げては運び去る。

 20分ほどで作業は完了した。三俣さんは「全部こうなら労働時間も短くなって、ええ仕事のような気がするけどね」と苦笑した。

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 常態化するトラックドライバーの長時間労働と低賃金。その要因に、三俣さんは「バラ」を名指しする。

 荷物にはパレットとバラ積みがある。バラ積みとは人の手による積み降ろしのことだ。取引慣行上、荷主がバラと指定すると、運送会社はサービスで請け負い、ドライバーが作業する。

 荷主がバラを選ぶのは、積載効率を上げたいから。量販チェーンの仕事はその典型だ。「サイズや重さの異なる箱がローラーで次々と流れてくる。それを仕分けながら『テトリス』みたいに積まなあかん」。過酷な現場は、体力自慢も悲鳴を上げる。

 もう一つの要因は「荷待ち」だ。予約システムのある大手以外は、入出庫するトラックが混み合いがち。終業が遅れれば睡眠時間に影響し、「時間の無駄でしかない」と切り捨てる。

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 ドライバーの本来の仕事は荷物を運ぶこと。荷主は「運賃」とは別に、荷役や待機時間の「料金」を支払うよう、2016年の約款改正で明確化されたが、名ばかりだといわれる。

 背景には「業界の多重下請け構造がある」と兵庫県トラック協会は指摘する。

 1990年からの規制緩和は新規参入を容易にし、県内の事業者は約3千社に増えた。その99.9%が中小・零細で、荷主に対して立場が弱い。「過当競争だから、仕事が下へ下へと落ちていく」。コスト削減のしわ寄せは何重にも及ぶ。

 ドライバーは40~50代が半数超で、若者のなり手は少ない。慢性的な人手不足の上、来春には時間外労働の上限規制が適用される。これによる輸送力の窮迫が物流の2024年問題だ。

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 貨物輸送は「とことん受け身」の仕事だが、三俣さんは3年前、勤務する「ロジネクス」(西脇市)の労働組合執行委員長に就くと、「バラ積みは効率が悪い」と見直しを訴えてきた。初めは労使で温度差があったが、「24年」が迫るにつれ、会社も姿勢を転換した。

 「元請け以外のバラは、受けないようにしている」と配車センターの待元久弥さん(39)。残業規制をにらみ、既に長距離便を大幅に減らし、地場と中距離便にシフトしてきた。生産性の向上は重要課題だ。業界全体が危機感を強める中、時間を食うただ働きは「見切り時」が近づいている。

 荷待ちも「当然のこと」ではなくなった。30分を超える待機は、配車から荷主に伝えている。「改善することもあるし、配車も後の予定が立てやすくなる。以前ははばかられたが、受け入れられる空気になってきた」と三俣さんは言う。

 「僕らにとって24年問題は大きなチャンス」。物流の危機が、荷主優位の関係を変えつつある。(田中真治) 【物流の2024年問題】24年4月から残業上限を年960時間とする改正労働基準法の規制がトラック運転手に適用され、輸送力が24年度に14%、30年度に34%不足すると推計されている。政府は物流の効率化や商慣行の見直しへ、政策パッケージを策定。荷主との交渉材料となる「標準的な運賃」も引き上げの方向だが、これを活用した運賃変更の届け出率は80.8%で、兵庫県は全国ワーストの39.7%(23年11月現在)。

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 2023年が暮れ、24年が明けようとしている。社会に立ちはだかるさまざまな課題に、私たちはどう向き合うか。従来とは異なる視点や価値観で常識を塗り替える大変革をゲームチェンジという。兵庫の現場で胎動する試みを探った。

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