喜びと悲しみ交錯した2023年、それでもロックは鳴り続く

チバユウスケさんと横山健さんが共演した写真(石井麻木さん撮影)の前に立つ黒沼亮介社長

 2023年の盛岡のロックシーンは、喜びと悲しみが交錯した。4年ぶりに「いしがきミュージックフェスティバル」が通常開催され、岩手県出身アーティストが凱旋(がいせん)した。ただ新型コロナウイルス禍の影響は色濃く、ライブ本数が回復傾向になったのは最近。人気ロッカーの訃報もあった。数々の困難に直面したライブハウス・盛岡クラブチェンジの黒沼亮介社長は、音楽でつながる「かけがえのない時間」と出会いを大切に、新年も音を鳴らす若い世代を支える覚悟だ。

 いしがきは9月、盛岡市内10ステージを巡る方式で開催され、延べ約8万人(主催者発表)が楽しんだ。完全復活できたのは、チェンジがコロナ禍でも実績を重ね、音楽の火を絶やさなかったことが大きい。

 特筆すべきは、全国で活躍する本県出身者の出演の多さ。日食なつこさん、ドミコ、Cody・Lee(李)、SaToMansion、FUNNY THINKなどが熱い演奏で魅了した。花巻市出身の日食さんは、チェンジといしがきを「ルーツのような場所」とし「丁寧に演奏できた」と笑顔を見せた。

 無料フェスの運営は困難の連続だ。この日の光景を黒沼社長は「手応えを感じた。勇気をもらった」と振り返る。「みんないい時期、悪い時期があっても、音楽をやり続けてくれた」

大勢の観客で盛り上がった「いしがきミュージックフェスティバル」=9月24日、盛岡市内丸・岩手公園

 コロナ5類移行後も環境は厳しい。ツアーは計画から実施まで時間がかかり、回復基調になったのは11月ごろ。チェンジのライブは月20本まで戻ったが、19年は月30~40本あった。物価高で娯楽への投資は抑制され、資材高騰も影響する。

 そんな中、開業20年の記念ライブを18本開催。チェンジを愛する人気バンドが続々登場した。記念イヤーの起点は22年末の大型イベント「FIGHT BACK」。大トリはチバユウスケさん率いる「The Birthday」だった。

 チバさんは11月、他界した。16年のいしがき初出演時、Ken Yokoyamaとコラボ。元「ミッシェル・ガン・エレファント」のチバさんと「ハイスタンダード」の横山健さんの共演は話題となり、その後、楽曲も出した。

 18年のイベントでは共演する直前、岩手日報社の取材に「ライブハウスをやろうというのは大変だからね。続けてきたことはすごいこと」と語っていた。2人の写真はTシャツにデザインされ、コロナ禍で苦しむチェンジを支えた。

 いしがきに別バンドで出演したハイスタンダードの恒岡章さんも2月に死去。音楽界は深い喪失感に襲われた。黒沼社長は「ロックスターがいなくなっちゃって、かけがえのない時間や人の大切さを感じた一年だった」とかみしめる。

 その上で「文化は死なない。楽曲は生き残り続ける」と実感し「ライブは一回一回が生のもの。いとおしく、大切に思いながら、若い力をサポートしていきたい」と未来を見据える。

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