役所広司さん「古里の誇りに」 諫早や映画への思い語る【インタビュー】

古里への愛着を込めて話す役所さん=長崎市、TOHOシネマズ長崎

 東京の片隅で生きる公共トイレの清掃員を描いた映画「PERFECT DAYS」。主演した諫早市出身の役所広司さんは、今年のカンヌ国際映画祭で男優賞に輝いた。今月2日、諫早市の市民栄誉賞授与式に出席するため来県した際、古里や映画への思いを尋ねた。
◇ ◇ ◇
 -カンヌの男優賞受賞。実感は湧きましたか。
 たくさんの海外メディアの取材を受け、海外の映画祭にも招待してもらった。いろんな国の配給が決まり、来年に向けて世界中の人が見てくれる。賞は作品のチーム代表としてもらった感じで、おかげでいろんな国の人と交流できたというのが実感と言えば実感。

 -諫早市の市民栄誉賞にも輝きました。
 内村航平選手の後で、こんな賞をいただいたら里帰りしにくくなるかなってすごく思いましたけど。何とか、諫早の人がより誇らしく思ってくれるような俳優を目指して、もう頑張るしかないかな。

■諫早の風景
 -里帰りをすることは。

 親父は早くに亡くなり、おふくろが生きているときは、とにかく年に1回は帰ってお墓参りしたり、おふくろに会ったりしました。でも亡くなると不思議なもので、兄弟はいるんですが、なんだか帰る理由がなかなか見つからなくて。友達もいて会いたいねなんて言うんですけど、じゃあ行こうっていうふうにならない。そういう意味ではご無沙汰してましたね。

 -諫早は役所さんにとってどんな町ですか。
 久しぶりに車から見ましたけど、あんまり変わってなくて。なんかのどかな風景で。本明川はやっぱり一番思い出深い場所で、あの川を大事にしてくれているし、かえって前より川周りを工夫して美しくしてもらっている。

 -諫早図書館敷地に自身が「魂よ 元気を出せ」と揮毫(きごう)した顕彰碑があります。
 (諫早市出身の脚本家)市川森一さん=2011年に70歳で死去=のせりふですね。市川さんは僕の兄の同級生で近所に住んでいて、よく遊びに来てた関係で、僕の親もよく知ってました。快獣ブースカで脚本家デビューしたときは家族ですごいなって言いながら。市川さん自身、僕を親戚以上に思ってくださっていたと思います。「魂よ-」は、舞台劇の僕の役のせりふで、市川さん自身がすごく好きだったらしいです。
 こんなに早く亡くなるとは思っていなかった。お葬式前に奥さまから電話をもらい、亡きがらに会わせていただきましたけど。まるで生きていて「ちゃんちゃん」って言って起きだしそうな感じの、そういうキャラクターの人なんですけど。今思い出すとやっぱり「魂よ 元気を出せ」って言いたくなる感じでしたね。

 -1985年放送の市川さん脚本、役所さん主演で諫早を舞台にしたドラマ「親戚たち」は諫早図書館で今も観賞できます。
 市川さんが(諫早の)干潟を守るというか、あそこの自然を守るというテーマで、雲太郎というチンピラの話を書かれました。今やギロチンで干潟はせき止められてしまい、市川さんは残念だったと思いますけど。でも今回、どうなってますかってドライバーさんに聞いたら、畑になったりして渡り鳥も来てますって。市川さんは、渡り鳥が来なくなるんじゃないかってすごく気にしてらしたんですが、ある意味渡り鳥は義理堅くて、ちょっといいなと思いました。「親戚たち」の撮影では僕が一番ネイティブな諫早弁で、他の俳優さんたちは本当に苦労してました。僕は自分のせりふより、共演者の方言がすごく気になった覚えがあります。

■映画の答え
 -今回の作品では清掃員の平山を演じました。伝えたいことは。
 映画は、お客さんの見方こそが正しい答え。平山さんが日々何かに満足し本当に今日はもう十分やることはやって、好きな本を読みながら眠りにつく。自分の置かれたところで非常に満足できる。そんな人は豊かな人生を送ることができるんじゃないかな。いつも何か足りない、あれもこれも欲しい、やっと手に入れてもまた欲しいというような僕たちの生活では得られない満足感。それが豊かさではないかと思います。

 -演技の留意点は。
 監督が日本で実際の清掃員をスカウトし映画を作った、みたいに外国の人から見てもらえるとうれしい。それには清掃のテクニックなど練習が欠かせないと思って準備し、極力撮影時は清掃の人に立ち会ってもらってやりました。気をつけたところは、やっぱり自然さ。その辺に生きている人間として見てもらうこと。俳優のテクニックとか余計なものが際立つとマイナスになると思いました。

 -ウクライナ侵攻など世界的に命が非常に軽んじられる時代、映画は個人の人生をかけがえのないものとして静かに描いています。
 地球環境の変動のことを考えても、平山さんみたいな人間が増えていけば何かしら環境の激変も少しぐらい先延ばしできるかはよく分かりませんけど、ああいう生き方を、早くみんなが気づけばいい。そういうメッセージはあるのかな。

 -世界的には核兵器使用の不安も抱えている。
 日本だけですからね(戦争)被爆国は。核を武器にして脅している国があるということで、いろんな国で反対運動をやっている。日本が一番やらなければいけない国だけど、ちょっと物足りないかな。

 -映画は映像で詩を表現しているようにも思われ木漏れ日が何度も出てきます。
 タイトルを「PERFECT DAYS」か「木漏れ日」か、どっちにしようかっていう時期がありました。それくらい木漏れ日は平山さんにとって非常に大事なもので、この木漏れ日の存在が彼を救ったこともあるかもしれない。木漏れ日は太陽の光が樹木を通じて作ってくれる自分にしか見えないプレゼント。僕たちは生活していて、ホームレスを見ても時には見えないものとしたり、まして木漏れ日なんて見過ごしますよね。しかし平山さんは木漏れ日を楽しみ、何か心が動く瞬間もあるかもしれないけど、そういう楽しみを持ってるってことはやっぱり幸せだろうなと思いますね。

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