京都の画家が愛した姫路のアフリカゾウ 車走らせ月に何度も…スケッチに通った思い出の地で「遺作展」

群れを描いた幅約10メートルの超大作など、アフリカゾウを中心とした日本画が並ぶ=姫路市豊富町、姫路セントラルパーク

 姫路セントラルパーク(姫セン=兵庫県姫路市豊富町)のアフリカゾウを数多く描き、5年前に54歳で他界した女性日本画家の遺作展が同パークで開かれている。「姉にとって『始まりの場所』に飾りたい」。女性の妹の望みに、かつてゾウの飼育を担当し、姉妹と交流のあった従業員が応えた。絵の中のゾウは本物と見まがうほどの生命力に満ちている。(上杉順子)

 描いたのは京都を拠点に活動した阪明美さん。京都教育大特修美術科在学中に日本画を始め、卒業後は中学校の美術教員に。動物画を好み、次第に「太い足が大地を踏みしめているのがいい」と、アフリカゾウのとりこになった。

 約30年前、ゾウの飼育を担当していた同パークの奥田和男さん(57)は、サファリに長時間止まっている車を不審に思い、のぞき込んだ。車内には一心不乱にスケッチする明美さんの姿があった。

 当時、ゾウの集団を間近で観察できる施設は限られていた。事情を知った奥田さんは他の客が少なくなっていたこともあり、「もっとゆっくり描きませんか」とゾウ舎に案内。明美さんは大喜びしていたという。

 それ以来、20、30代の頃は京都から車を走らせ、月に何度も同パークに通った。「奥田さんには本当に良くしてもらって」と、同行した妹の由美子さん(55)=京都市=は懐かしむ。

 明美さんはゾウの絵を中心に描き、日展入選など実績を積んだ。1997年には銀座の画廊で、12頭の群れを描いた幅10メートル、高さ2メートルの大作「GROUND(グラウンド)」を披露。翌年は同パークで知り合った動物写真家とアフリカに取材に行き、初めて野生のゾウをじっくり観察した。

 その後も創作意欲は衰えなかったが、2018年11月、54歳の誕生日に乳がんのため亡くなった。

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 由美子さんらは京都で一度、遺作展を開いたが、没後5年を前に、最後の展示にふさわしい場所として同パークが浮かんだ。営業部課長になっていた奥田さんに話を持ちかけ、同パーク初の絵画展開催が決まった。

 会場の壁一面に銀座以来となる「GROUND」を展示。1991年に同パークで誕生したゾウの雄「タカ」、アフリカで出合った赤土を全身に浴びたゾウを描いた作品などが並ぶ。

 「ここは姉がいろんな作品を描くようになった原点。飾ってもらえてうれしい」と由美子さん。

 同パークは84年の開園時からアフリカゾウを飼育し、多い時は7頭いたが、20年に雄の「ヒロ」が死んだ後は不在に。奥田さんは「今はいないゾウたちが、ここにはいる。またいずれ、ゾウを飼育したい」と誓った。

 遺作展「始点への帰展」は28日まで。午前10時~午後4時。入場無料だが入園料が必要。9日以降は火、水曜休み。同パークTEL079.264.1611

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