伝統の食文化支える、播磨ならではの「さしすせそ」 「発酵文化の発祥地」掲げ、官民挙げたPR 兵庫

新酒の仕込み作業が進む老松酒造の酒蔵。タンク内のもろみを櫂棒でかき混ぜる杜氏=宍粟市山崎町山崎(撮影・辰巳直之)

 日本食に欠かせない調味料「さしすせそ」。通常は砂糖、塩、酢、醤油(しょうゆ)、みそを指すが、兵庫県播磨地域にも、伝統の食文化を支える食材がある。山や川、海といった豊かな自然に育まれてきた播磨ならではの「さしすせそ」。まずはお正月らしく「さ」(酒)から。(村上晃宏)

 「チロチロチロ」-。

 巨木に囲まれた庭田神社(宍粟市一宮町能倉(よくら))の裏手。清らかな水が湧き出るこの場所は「ぬくゐの泉」と呼ばれ、日本酒が誕生した場所と言われる。

 約1300年前の播磨国風土記に、神社周辺を示すとみられる「庭酒村(にわきのむら)」が登場し、そこで「水にぬれた米にできたカビから酒を造った」との表現がある。これが日本酒に関する最古の記述とされる。

 「日本酒発祥の地」をうたう宍粟市。江戸初期、今の同市山崎町付近には30以上の蔵元が軒を連ねた。今も老松酒造と山陽盃酒造の2社が伝統を守る。

 老松酒造は1768(明和5)年の創業。明治期の6代目道素(どうそ)善次郎は積極的に酒米の産地や蔵元に足を運んで研究し、宍粟を代表する酒蔵に成長させた。

 ひんやりとした蔵には高さ約3メートルのタンクが林立し、木造の足場は歴史の深さを物語る。白濁のもろみを丹波杜氏(とうじ)が櫂棒(かいぼう)で混ぜると、甘い香りが漂った。

 「水の清らかさや寒暖の差は酒造りに最適」。同社の前野久美子専務(63)は、水に恵まれ、山に囲まれた盆地の山崎だからこそ良質な酒ができると語る。

 「日本酒離れ」が言われて久しいが、若年層に対しても新たな手を打つ。2019年に母屋を改装し、発酵食を使ったレストラン「老松ダイニング」を開業。自家製の酒かすや塩こうじ、もろみを使った料理は健康ブームに乗って好評だ。

 老松酒造の斜め向かいにある山陽盃酒造。1837(天保8)年に創業し、銘柄「播州一献」で知られるが、2018年11月、災禍に遭う。火災によって築約150年の蔵が全焼した。

 ただ酒造りの心臓部であるこうじ室(むろ)は無事だった。7代目で杜氏(とうじ)の壺阪雄一専務(43)は「神様が酒造りを続けなさいと言っていると思った」と振り返る。

 21、22年にはイギリスやフランスで開かれた品評会で最高評価を得るなど、海外の左党にも支持を受ける。「酒造りは毎年1年生の気持ちで臨む。常に研究を深め、高品質な商品を造り続けたい」と壺阪専務。

 飽くなき探究心が伝統の味に磨きをかける。

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 実は宍粟市のほかに、伊丹市や奈良市、島根県も清酒や日本酒の発祥の地を主張している。そこで宍粟市が「ライバル」との差別化を図るため、打ち出したのが「発酵のふるさと」だ。

 「日本酒は女性や下戸に響かない。『発酵文化の発祥の地』を掲げてはどうか」。17年2月、発酵学の第一人者、小泉武夫・東京農業大学名誉教授が宍粟を訪れた際に、こう発言したのがきっかけだった。

 19年7月に酒蔵や漬物会社など25団体でつくる「市発酵のまちづくり推進協議会」が発足。酒や漬物、藍染めといった発酵文化に着目し、まち全体でPRに取り組む。

 「宍粟ならではの発酵文化を発信したい」と市の担当者。奥播州の酒どころから新たな挑戦が始まっている。 <メモ>

 【老松酒造】宍粟市山崎町山崎。午前10時~午後5時。「スエヒロ老松」1800ミリリットル1738円など。オンライン販売も。4日まで休み。TEL0790.62.2345

 【山陽盃酒造】宍粟市山崎町山崎。午前11時~午後4時半。「播州一献 純米大吟醸 播州吉川産山田錦35」1800ミリリットル1万1千円など。オンライン販売も。4日まで休み。TEL0790.62.1010

 【しそう酒粕(さけかす)フェア】28日まで。宍粟市内の飲食店で酒粕を使った料理を提供。市秘書政策課TEL0790.63.3139

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