穴水11人生き埋め 「希望捨てない」親族見守る

土砂崩れで倒壊した住宅から救助した住民を運ぶ消防隊員=5日午後2時、穴水町由比ケ丘

  ●2棟土砂に押し流され

 生存率が下がる「72時間」を大幅に過ぎても、わずかな可能性を信じるしかなかった。能登半島地震は5日、発生から5日目を迎えたが、輪島市、穴水町で少なくとも100件の生き埋めが続き、向かい合う2棟の住宅が土砂に巻き込まれた穴水町の現場では計11人が建物内に取り残されたまま。「希望は捨てないでいたい」。金沢から駆け付けた親族の男性は懸命な救出作業を祈るように見守った。(穴水支局長・中川弘孝)

 穴水町由比ケ丘地区では、地震による土砂崩れで道路を挟んだ民家2棟が押し流された。一方の家屋は横転して屋根瓦の半分が崩れ落ち、複数の電柱は根元からへし折れている。発災2日目に最初に現場に足を踏み入れたが、すさまじい光景に目を疑った。

 4日からは規制線が張られ、救出作業も遠くから見守るしかない。消防隊の活動を食い入るように見つめる1人の男性がいた。土砂で家を流された高齢夫婦の義理の息子である会社員寺本直之さん(52)=金沢市泉2丁目=だ。

 寺本さんによると、年末年始に妻の実家で過ごすのが恒例。1日は仕事があった寺本さんを除き、義理の父母と妻、15~24歳の子ども4人、妻の弟夫婦とその小学生の子ども1人の計10人が集まっていた。

 寺本さんは地震発生直後から何度も電話したもののつながらなかったという。由比ケ丘は携帯の電波がつながりにくい地域で特に心配しなかったそうだが、その後も音信不通が続いた。町や警察などに問い合わせ、行方不明の可能性があることが判明した。

 4日からようやく重機を使った捜索が始まった。5日は石川県内から集まった消防隊員約30人が午前7時から午後5時まで捜索に当たり、この日までに現場から義理の父母が救助されたが、ともに死亡が確認された。大量の土砂が消防隊員の行く手を阻み、余震があるたびに作業の手が止まる。全員の救助には至らなかった。

 同様に土砂に押し流された向かいの住宅=川島=でも4人が巻き込まれた。住んでいた女性(34)の死亡が確認され、同居の息子(11)と60代の両親の計3人の安否が確認できていない。

 「覚悟はできているけれど、外出していたかもしれない。中にいるなら一刻も早く出してあげたい」。寺本さんはそう静かに語った。

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