コケ、地衣類たくましく 異変-生態系クライシス~南極から~「雪鳥沢」の植生モニタリング(上)

コケ類や地衣類の状態を確認する隊員=4日、ラングホブデ・雪鳥沢

 【南極大陸=報道部・小田信博】日本の南極観測隊は長年、南極大陸沿岸部の露岩域「ラングホブデ」の雪鳥沢(ゆきどりさわ)でコケ類などの植生モニタリングを行っている。第65次隊(橋田元隊長)の調査チームに3~5日の日程で同行し、厳しい環境下で形成される豊かな生態系を目の当たりにした。現地の様子を2回にわたり、紹介する。

     ◇

 昭和基地から南に約20キロ。ヘリコプターで10分ほど移動し、降り立った場所は、氷の大地とは打って変わり、砂と岩だらけの荒涼とした世界だった。むき出しの岩肌に、わずかに雪が積もり、歳月をかけて積み重なった地層が不思議な模様を描いていた。

 海岸部を離れ、岩が転がる谷あいに入る。しばらく進むと雪解け水が増え、湿った地面や、岩肌に生えるコケ類、菌類と藻類の共生体である地衣類を見つけた。普段なら素通りしてしまいがちだが、極地で久しぶりに目にする生物に、うれしさがこみ上げた。

 雪鳥沢はラングホブデの中央部に位置し、名前の由来である鳥類、ユキドリの生息地でもある。2002年の南極条約協議国会議で、141番目の南極特別保護地区に指定された。日本が管理する唯一の保護地区であり、鶏肉や卵(加工品を含む)、殺虫剤などの持ち込みは禁止。立ち入りには環境省の許可が必要で、地区内の移動も徒歩でのみ許されている。

 この地区に生息するコケ類は7種類、地衣類は16種類。雪解け水に加え、ユキドリなど鳥の死骸や排せつ物が養分として供給され、植物が育ちやすい環境が形成されているという。1984(昭和59)年に植生のモニタリングが始まり、今もなお、継続している。

 今回は海岸部から2.5キロほど歩き、定点観測を行っている約50地点でコケ類や地衣類の状態を写真に収めた。現時点で大きな変化はないが、地球規模で気候変動が起こる中、異変を察知するには毎年のモニタリングが重要となる。チームに同行した環境省職員の塚本康太さん(32)=名古屋市出身=は「南極で植物が生息できる場所は少ない。雪鳥沢は希少なエリアで、自然環境を守らなければいけない」と力を込める。

南極でも希少な生態系が根付いている雪鳥沢

© 株式会社山形新聞社