ILC計画、求められるビジョン明確化 諮問委・村山委員長に聞く

「ILC計画のビジョンを早く明確にすることが求められている」と指摘する村山斉氏

 米国の科学諮問委員会(P5)の委員長を務める村山斉氏(米カリフォルニア大バークレー校教授)のインタビュー詳報は以下の通り。

 (聞き手は東京支社・細川克也)

 P5は素粒子物理学の研究者から出されたプロジェクトの是非を国の予算の枠内で決める。昨年12月に発表した最終報告書はワークショップなどを重ねて約1年間でまとめた。

 2014年以来となる報告書をまとめる際、現在の予算では米国内にヒッグスファクトリーを整備できないと判断したが、素粒子物理学の研究は国際的なパートナーと一緒に実現することにした。欧州のFCC(次世代型大型円形加速器)とILC(国際リニアコライダー)の計画は、われわれが考えている素粒子物理学の目標を達成できるので、ぜひ参加するべきだ。

 これらに実現可能性があるとして内容が具体化した場合、米国は約10億~30億ドル(約1450億~4350億円)の範囲で支援する。これ以上支出すると国内のプロジェクトが空洞化してしまう。これ以下の金額では十分な貢献とは言えない。

 報告書をまとめるに当たり、研究者から提案を吸い上げるスノーマスというプロセスがある。ここでワークショップを重ねた結果、ヒッグスファクトリーの重要性がはっきりした。P5の議論でも素粒子物理学の観点から非常に重要であるという判断になり、前回の報告書より踏み込んだ内容になった。

 仮にスイスのCERN(欧州合同原子核研究所)でFCCを建設するとしても、現在の円形加速器・LHCが終わってすぐには稼働できない。そうなると加速器を使った実験に何年かの隔たりが出て、次世代の研究者も育たない。素粒子物理学の研究は先行き不安になる。

 ヒッグスファクトリーの研究は継続性が大事。LHCの稼働が終わる前に、他の施設の稼働が始まるのが理想だ。CERNのスタイナー・スタプネス氏がILC稼働開始のリミットを「2039年」としたのは、そのような理由からだと思う。

 米国ではILC計画がどうなるか分からないと思われている。研究者がよく言うのはILCにはホストがない。つまり主体がないプロジェクトなので信用できないということ。ILCを日本に誘致するには、プロジェクトの枠組みをどうするか、今後のビジョンを早く明確にすることが求められている。

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