被災者の中には、感染症や見知らぬ人との共同生活への不安から、避難所へ行くことをためらう人も多い。11日、志賀町の山あいにある草木地区を訪れると、ビニールハウスで身を寄せ合い、知恵をしぼって命をつなぐ住民がいた。(志賀支局・伊藤聡哉)
午前9時ごろ、雪が残る集落を訪ねた。冷え込みが厳しく、小さな水たまりには氷が張っていた。手がかじかむほどの寒さの中、ぽつんとたたずむ1棟のビニールハウスから笑い声が聞こえてきた。
「入るこっちゃ。あったかいぞ」。高齢の男女が笑顔で迎えてくれた。奥行き約10メートルのハウス内ではストーブ3台が稼働しており、意外に温かい。
●着替え気にせず
「避難所はコロナも怖いし、人前で着替えるのが嫌な人もいる。ビニールハウスはそういうのを気にしなくていいから快適」。坂本哲郎さん(81)はこう話す。周囲を山に囲まれており、強風で飛ばされる心配もないという。
坂本さんは被災直後、近所の90代女性から「避難所は遠いし人もいっぱい。在所で避難したい」と相談を受け、自宅前の農業ハウスを自主避難所として開放した。家に住めなくなった34~96歳の男女10人が集まり、畳やアルミシートを敷き、ストーブや毛布を持ち寄って寒さをしのいだ。
●湧き水で風呂
坂本さんの自宅裏に流れ出る湧き水で湯や風呂を沸かし、夜は自宅のコンセントから電気線を引っ張ってハウス内の豆電球につなげている。坂本さんは「協力すれば何でもできる」と得意げな表情。「何より近所の仲間が一緒だから心強い」と力強く語った。