「銀行の仕事は、信用の創造」十六FG池田直樹社長 ベストセラー「サピエンス全史」からビジネスを考える

十六フィナンシャルグループ代表取締役社長・池田直樹さん

「銀行の仕事は、まさに信用の創造そのもの」。そう語るのは、十六銀行などを子会社に持つ、株式会社十六フィナンシャルグループ社長・池田直樹さん。世界的ベストセラーである「サピエンス全史」を読んで、「虚構」と「信用」について深く考えさせられたと言います。全人類史を俯瞰して語られる「サピエンス全史」の魅力について語ってもらいました。

――「サピエンス全史」を読んでみていかがでしたか。

「サピエンス全史(上)(下)文明の構造と人類の幸福」ユヴァル・ノア・ハラリ 著・柴田裕之 訳

非常にスケールの大きな本でした。ビジネス書であり、歴史書・哲学書でもありました。特に印象的だったのは、貨幣についての話です。著者は「貨幣とは人類が虚像として作り出した効率的な創造物」と語っています。経済の本とは違った意味で理解できる本だと思いましたね。

――たくさん付箋を貼り付けたり、線を引いたりしていますね。どんな部分に印をつけましたか。

特に印象的な部分

「富めるものが強欲であり続け、さらにお金を儲けるために一般大衆が自らの渇望と感情にしたい放題にさせ、より多くを買う」。

つまり、お金のある人がどんどん強欲になって一般の大衆の人がそれに乗って多くの不要なものを買わされる、と。それが幸せだと感じる根拠は何かというと、「テレビで見たから」だと書いてあります。テレビCMで高級車を見たときに、乗っている自分を想像しますよね。自分にも相通じるものを感じましたね。

信用とは今日のパイの大きさと、明日のパイの大きさの差

本の中で「認知革命」について説明した部分があります。「虚像を作って、みんなに信じ込ませる」。リアルにない“物語”を作って信じ込ませることは、人間、ホモ・サピエンスが初めてやったことなのだと。

私たちの世界では「信用とは今日のパイの大きさと、明日のパイの大きさの差」と言っています。私自身は信用の仕事に携わっているので、明日のパイが大きくなる希望を持つとか 持たせるのは人にしかできないこと。銀行の仕事は、まさに信用の創造そのものなので、「サピエンス全史」はビジネス書だと感じましたね。

銀行について語る池田社長

銀行は過去の経営成績を分析して論理的に把握することがメインの仕事です。将来を予測するよりも「地域の経済や生活者の役に立つんだ」と夢やビジョンを語ることが大事だと感じました。そして夢やビジョンを語ることが組織をまとめるのだと、書いてあります。「虚構」を共通の価値観として信じてもらうことで、多くの人を巻き込むことができると考えています。

一見、嘘を信じ込ませるようにも思えて「どうなのか」と思う人もいるかもしれませんが、少し納得した部分がありました。

「農業革命」について語る

「農業革命」の部分も非常に興味深かったです。狩猟民族が農業をしたことによって幸せになったわけではなかったのです。農業をすることによって労働時間が長くなりました。しかも狩猟民族のときは食べ物の種類が多く、栄養も豊富。病気にかかりにくかったのだと書かれています。これは読んでいて目からうろこでした。狩猟から農耕に移り変わったことは、果たして「進歩」と言えるのか。納得する部分と、腑に落ちない部分とあって、考えを巡らせましたね。

――著者は「農業革命は史上最大の詐欺だ」とも記していますね。

農業をしたことによって、富める者と富めない者が大きく分かれます。出来た作物を占有する人、作り続けなくてはならない人。今の社会構造、富の格差につながっていると気づかされました。

――読書の魅力について教えてください。

池田社長「読書は非日常を味わえるもの」

どんなジャンルの本であれ、日常から少し離れてさまざまなシーンを想像する、あるいはあらすじの先を考える。頭の中でイメージを膨らませられるのは、本だからこそできることではないでしょうか。心に訴えかけてくるような作品に出合えたら、よりいっそう、読書の良さを感じますよね。

(取材協力:十六フィナンシャルグループ代表取締役社長・池田直樹さん)

世界的ベストセラー「サピエンス全史」

●サピエンス全史(上)(下)文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ 著・柴田裕之 訳
ホモ・サピエンスが文明を築き、世界を制覇したのはなぜか。歴史書でありながら、新たなビジネスモデルを考えさせる世界的ベストセラー。

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