大谷選手、日本人像変える 共同通信スポーツデータ部長・石原秀知氏が講演

講演する石原秀知氏

 山形県勢懇話会の第627回例会が18日、山形市の山形グランドホテルで開かれ、共同通信スポーツデータ部長の石原秀知氏が「大谷翔平が変える日本人像」と題して講演した。石原氏は米大リーグでの大谷翔平選手の活躍に触れ、「高い志と地道な努力、精神的な強さで限界を破り、海外だけでなく、われわれ日本人にも新たな日本人像を見せてくれている」と述べた。以下は講演要旨。

 最近はドジャースとの大型契約で注目を集めた。大リーグで後払いは珍しくないが、報酬の97%はこれまでにない額。後払い分の利息をつけなかった点も考えられないことだった。他選手の補強に使ってほしいとし、チーム全体が強くなることを理想としていた。お金よりも勝利にこだわっていることがよく分かる契約だった。

 高校、日本のプロ、大リーグとレベルが上がるにつれ、選手の特性に合わせて分業化していくのが一般的だが、大リーグでも投打で素晴らしい成績を残し、二刀流は無理だという懐疑的な意見を完全に覆した。現在は米国でも二刀流を目指す選手が増えている。できると信じて取り組んできた大谷選手と、プロ野球日本ハム時代に大谷選手を信じて育成した栗山英樹監督の出会いがこの結果をもたらした。

 なぜ岩手県、東北地方からこのような選手が生まれたのか。大谷選手は、菊池雄星選手を擁する花巻東高が甲子園で準優勝したのを見て「岩手にいてもできる」と花巻東に進んだ。同校野球部の佐々木洋監督の存在は大きい。監督は菊池選手を育て手応えを感じたが、同時に、けがをしているのに気づくことができずに甲子園で戦わせたことを反省していた。だから大谷選手には無理をさせず、どれだけ選手ファーストでできるかを重視していた。この環境だから成長できた。

 日本人大リーガーが登場して今年で60年になる。道を切り開いてきた先人がいて今の大谷選手がいる。日本人の特性を発揮して安打を量産したと言われたイチロー選手は「日本人が本塁打王を取るのは難しい」と話していた。松井秀喜選手は大谷選手の活躍に「僕は志が低く、本塁打を狙っていなかった」と語った。彼らですら限界をつくっていたのではないか。大谷選手が突き抜けることで、続く選手は出てくる。誰でもできるわけではないが、不可能ではないことを示した。われわれ日本人にも新しい日本人像を見せてくれている。

 大谷選手の活躍を見るにつけ、正しい指導を受けていれば、もっと早い時期にも大谷選手クラスの選手が生まれ得たのではないかと考える。かつては厳しい練習に耐えることを美談としてきたが、本当にそれでいいのか。厳しさは大切だが、正しい知識を持ち、情報をアップデートして指導し、第二、第三の大谷翔平を育てていくことが大事だ。

米大リーグの大谷翔平選手が示した新しい日本人像について、理解を深めた山形県勢懇話会=山形市・山形グランドホテル

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